退職金には税務上の上限がある。その理由と計算方法。
退職金をいくらにするかは、それぞれの会社の自由です。
しかし、税務上は経費としての上限がもうけられています。
その理由と計算方法を解説します。
退職金には税務上の上限がある理由
退職金をいくらにするか……?
大前提として、会社は退職金を自由にきめることができます。
退職金は、会社をやめるかたのそこまでの功績に報いるもの、老後の生活費も考慮した賃金の後払い的なものといった面があります。
なので、これらのことを退職金額におきかえる方法は、それぞれの会社が独自にきめることができるのです。
しかし、税金にかんしては話がちょっと変わります。
というのも、税金は全般的に「利益調整」をきらうからです。
利益をすべて退職金におきかえてしまえば、税金はゼロ……
なので、税金を計算するにあたっては、ある一定のところまでしか経費として認めないよ、というルールになっています。
退職金は会社で自由にきめてもよいが、税務上はある一定のところまでしか経費として認めない。
これは、会社からどれだけお金がでていってもよいが、税金の計算をするときは経費に上限を設けるね、ということなのです。
- 上限まで……経費になる
- 上限をこえた部分……経費にならない
たとえば、退職金「500」を支払ったとしましょう。
- このときの上限は「300」
このように、お金がないのに税金がでてしまうようなこともあり得るのです。
このようなことを避けるため、退職金は青天井ではなく、この上限におさまるように設定することがほとんどです。
退職金の上限の計算
退職金の上限は、「世間相場」です。
法律(法人税法)では、おもに次の3点を考慮したものを上限としています。
- 会社ではたらいた期間
- 退職の事情
- おなじ業種・おなじ規模の他の会社の退職金
3つめの「おなじ業種・おなじ規模の他の会社の退職金」をいいかえると、「世間相場」となるのです。
ですが、世間相場なんて分かるものでしょうか……?
かりに、誰かに聞いたとしてホントのことを言うでしょうか。
退職金ってけっこうな金額なことも多いですし、ペラペラしゃべるようなことでもないですよね。
金額だけみれば「宝くじにあたった」にちかいものもあるでしょうし。
そこで、実務では、会社をやめるときの役員報酬(月額)をベースに計算することがほとんどです。
やめるときの役員報酬(月額)の○○倍、という風に。
具体的な算式は、次のとおりです。
- 会社をやめるときの役員報酬(月額)×はたらいた期間×功績倍率
なお、功績倍率は一般的に次のものを用います。
- 社長……2.0~3.0
- 取締役……1.0~1.5
たとえば、社長が退職金をとるとして……
- やめるときの役員報酬(月額)……80万円
- はたらいた期間……30年
- 功績倍率……3.0
計算すると、上限は7,200万円となります。
あくまでも、税務上の上限なので、これ以上に支給してもよいし、これよりも少ない退職金でもよいのです。
退職金はおおきな金額になることがほとんどなので、税務署からみれば「おいしい案件」ともいえます。
もし、上限をこえているなら。
そこで、もめることも少なくなく、裁判例もたくさんあります。
その要素のひとつが「やめるときの役員報酬(月額)」です。
やめる直前に突然ガツンとあげるのは、やめましょう。
ほかに頼りになるものがないので、しかたなく上記の算式をつかっているのが実情なのですが、この算式の役員報酬は、年功序列の時代の「給与は徐々にあがっていくもの」という前提でつくられています。
退職金が話題になったとき、やめるあたりの役員報酬しかみない、ということはありません。
過去からの推移もチェックされます。
もし、やめる直前でガツンとあがっていれば、「退職金を意識したんでしょ」となってしまいます。
退職金の前提となる、やめるときの役員報酬が「そもそも適正ではない?」となり、「上限も見直しましょうね」となる可能性があります。
また、社会保険をおさえるために、毎月の役員報酬をすくなくし、残りをボーナスでもらうという手法があります。
上限の計算でつかうのは、「役員報酬(月額)」です。
いちぶ「ボーナスをふくめた1年間の役員報酬を12ヶ月でわったものが月額だ」という意見もあるのですが、100%安全とは言い切れません。
この手法をつかうのなら、リスクがあることを覚えておきましょう。
まとめ
退職金をいくらにするかは、それぞれの会社の自由です。
しかし、税務上は経費としての上限がもうけられています。
退職金は人生で1回のもの。
トラブルがないように準備しておくことが大事です。
※ 記事作成時点の情報・法令等に基づいています。
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