役員賞与を支給しないなら知っておくべき落とし穴
役員賞与を支給しないときは、それを決めたのがいつかにより扱いが変わります。
- 支給日より前……賞与辞退届・株主総会の議事録をつくりましょう
- 支給日より後……絶対に避けましょう
「会社からお金が出ていっていないし、利益にも影響ないだろう」
これが、そうでもないのです。
支給しないなら、かならず支給日より前に手続きをしましょう。
役員賞与のルール
役員賞与は、正式には事前確定届出給与といいます。
事前に株主総会で「だれに・いつ・いくら支給するか」を確定し、その後に税務署へ届出をだし、それから支給する。
このような流れで支給するからです。
この役員賞与ですが、とても気をつけなければいけないことがあります。
それは、税務署へ届け出た内容通りに支給しなければ、支給した役員賞与はすべて損金不算入となることです。
※ 損金不算入とは、会計ソフトや決算書では経費になるが、税金の計算をするときは経費にならないことをいいます。
だれに・いつ・いくら。
この3つの要素のうち、1つでも届出通りにならないなら、支給した役員賞与は全額が損金不算入となるのです。
たとえば……
- 届出……100万円を支給する
- 現実……150万円を支給した
このとき、損金不算入となるのは「150万円」すべてです。
届け出たところまでは認めてくれる……というわけではないのです。
また、支給日についても同様です。
1日でもズレれば、すべて損金不算入となります。
ちょっと使いづらいな……と思うでしょうが、じつはもう一つ、使いづらさの原因があります。
それは、税務署への届出の期限です。
- 株主総会で役員賞与を決めてから1か月以内
- 年度がはじまってから4か月以内
この2つのうち、早い日付が期限です。
つまり、前期の決算がおわったら、あまり時間をあけずに届出をする感じになります。
そこから役員賞与の支給日までが、長ければ長いほどリスクがあります。
忘れてしまう……
なぜ、こんなに使いづらい仕組みになっているのか……?
それは、後からの利益調整はダメ、というのが税金の基本的なルールだからです。
もし、役員賞与をまったく自由にできるなら、会社の利益をそっくり役員賞与にすることができます。
結果、法人税はゼロ……
そんなわけで、役員賞与はちょっと使いづらい仕組みになっているのです。
役員賞与を支給しないなら知っておくべき落とし穴
- 役員賞与をだすと、会社が赤字になってしまう……
- 届出したのを忘れていた……
こんな理由で、届出はしたのに役員賞与を支給しないケースもあるでしょう。
支給した金額が届出とちがえば、すべて損金不算入。
ということは、支給がゼロなら税金には影響しないかも……?
損金不算入になる金額もゼロだし。
これには、落とし穴があります。
それは、支給しないことを決めたのが支給日の前なのか・後なのか、により変わります。
支給日より前のケース
もし、その役員が社長自身や家族ではない場合、どう思うでしょうか。
社長も役員も、そして株主もすべて赤の他人、とイメージしてみましょう。
役員賞与は株主総会で決めます。
そして、決めたら役員賞与をうけとる権利が発生します。
その役員のしらないところで、勝手に支給をやめることはできないのです。
支給しないなら、その役員から会社に「役員賞与はいらない」と辞退してもらう必要があります。
これで権利もなくなるので。
また、その辞退を受けて、株主総会でも「役員賞与は支給しない」と決議することも必要です。
手続きとしては、次の2つの書類をつくっておきましょう。
- その役員からの賞与辞退届
- 株主総会の議事録
支給日より後のケース
このケースは厄介です。。。
上記の2つの手続きがなければ、届け出た支給日に、次のことが起こってしまいます。
- 届け出た金額で、役員賞与を経費に計上する
- おなじ金額で、その役員への未払金を計上する
経費になった役員報酬は、届け出た金額を支給していないので損金不算入。
その役員への未払金は、残りつづけてしまう。。。
未払金が残りつづけるのを解消するには、その役員から「未払金は払わなくてよい」と言ってもらわなければなりません。
赤の他人どうしの関係を想像してみましょう。
場合によっては、「賞与を払え」と裁判になるケースだってあるかもしれません。
なので、その役員とは「支払わなくてもよい」と合意しておく必要があるのです。
すると、会社は支払いが無くなったのでトクをするわけです。
これを、債務免除益といいます。
会社では、その役員と合意した日付けで次のことが起こります。
- 未払金がなくなる
- おなじ金額で、債務免除益が収入になる(利益がふえる)
ややこしいですが、利益がどうなるかを整理しましょう。
- 収入……債務免除益
- 経費……役員賞与(損金不算入)
どちらもおなじ金額です。
なのでプラマイゼロ。
ですが、経費のほうは損金不算入。
つまり、税金の計算では、役員賞与の金額分の利益がでてしまうのです。
役員賞与は支給していない、会社からお金は出ていっていない。
なのに、利益・そして税金がでてしまうのです。
これは絶対に避けなければいけません。
うっかり忘れていた……では済まないのです。。。
まとめ
役員賞与を支給しないときは、それを決めたのがいつかにより扱いが変わります。
- 支給日より前……賞与辞退届・株主総会の議事録をつくりましょう
- 支給日より後……絶対に避けましょう。
役員、株主が赤の他人どうしだったらどうなるかを想像するとピンときやすいです。
※ 記事作成時点の情報・法令等に基づいています。
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