法人に最低限必要な税務手続きを自分で行うには
法人にとって必要な税金の手続きは申告・納付だけではありません。
最低限必要な手続きにはどんなものがあるかを整理し、そのやり方について解説します。
※ 今回の記事で対象にしているのは、株式会社と合同会社です。
目次
法人に最低限必要な税務手続き
法人を運営していく上でどうしてもやらなければならない税務手続きは、次のとおりです。
- 法人税等の申告・納付
- 役員報酬の変更
- 源泉所得税の納付
- 住民税の納付
- 年末調整
- 法定調書の提出
- 給与支払報告書の提出
- 償却資産税の申告
それぞれについて基本的な内容を解説します。
(例外的・特例的なしくみは省きます)
法人税等の申告・納付
法人は年度末から2か月以内に、つぎの税金の申告・納付をしなければなりません。
税目 | 提出先 | 補足 |
法人税 | 税務署 | 法人税には「地方法人税」が含まれます |
住民税 | 都道府県税事務所・市区町村役場 | 提出先は、本店所在地により異なることがあります |
事業税 | 都道府県税事務所 | 事業税には「特別法人事業税」が含まれます |
消費税 | 税務署 | 免税事業者は不要 |
もし「前期」の法人税が20万円を超えるなら、消費税以外については「中間納付」も必要になります。
年度がはじまってから8か月目に、前期の税金の半分くらいを、つぎの申告の前払いとして納める仕組みを中間納付といいます。
消費税にも前期の実績におうじて中間納付はあります。
法人税にくらべると複雑ですが、次のとおりです。
前期の消費税 | 中間納付の回数 | 金額 | 時期 |
48万円以下 | なし | ||
48万円超 400万円以下 | 年1回 | 前期の半分くらい | 年度開始から8か月目 |
400万円超 4,800万円以下 | 年3回 | 前期の1/3くらい | 年度開始から5か月目・8か月目・11か月目 |
なお、これらの税金は会社の帳簿(会計データ)をもとに計算します。
なので税金の申告書をつくる前に、まずは会計ソフトへの入力を完成させなければならないのです。
役員報酬の変更
役員報酬は、原則として毎月おなじ金額でないと「損金不算入」になる部分がでてきます。
損金不算入とは、法人税等を計算するときだけ「経費とはならない」ことを意味します。
詳しく知りたいかたはコチラの記事をどうぞ。
(参考記事)損金不算入になるとお金はどうなるか
けれど、変えるタイミングがなければ会社を設立してからずっと同じ金額…となってしまいます。
そのため、変えてもよいタイミングが設けられているのです。
それが「年度開始から3か月以内」です。
税金の申告が「年度末から2か月以内」ですので、その内容をうけて新年度の役員報酬をきめるのが一般的です。
源泉所得税の納付
役員報酬や給与、ボーナス、士業などスペシャリストへの支払いは、支払い相手の「源泉所得税」を天引きして払わなければなりません。
この天引きを「源泉徴収」とよびますが、これは会社にとって義務です。
そして源泉徴収したものは、給与などをはらった月の翌月10日までに税務署へ納めます。
ただし役員・従業員あわせて10人未満なら、この手続きを次のとおり年2回に省略することができます。
- 1月~6月分……7月10日までに納付
- 7月~12月分……1月20日までに納付
住民税の納付
役員報酬や給与からは、それぞれの個人の住民税を天引きします。
源泉所得税とおなじ仕組みですが、年2回に省略するときは次のとおり時期がかわります。
- 6月~11月分……12月10日までに納付
- 12月~5月分……6月10日までに納付
年末調整
年末調整は、会社の役員や従業員それぞれの所得税にかんする手続きです。
役員や従業員それぞれが個人の確定申告をしなくてもよいように、会社が1年分の所得税を計算するのです。
ふだん役員報酬などから天引きしている「源泉所得税」は、役員や従業員にとっては「前払い」です。
この前払いと1年分の所得税をくらべ、1年の最後に給与などをはらうときに「多かった・少なかったの精算」をするのが年末調整なのです。
また、年末調整がおわったら「それぞれに源泉徴収票を渡さなければならない」ので、それも作る必要があります。
年末調整では医療費やふるさと納税はふくめないため、後でそれぞれが確定申告をすることもあるからです。
法定調書の提出
法定調書の提出とは、会社が1月~12月の間にはらった次の情報を税務署へ報告する手続きです。
- 役員報酬、給与、ボーナス、退職金
- 士業などスペシャリストへの報酬
- 家賃、地代
- 不動産の売買 など
法定調書とは「法律でつくらければならないと決められた書類」ですが、源泉徴収票などがこれにあたります。
これらの情報をまとめ、毎年1月中に提出します。
給与支払報告書の提出
給与支払報告書は、個人の住民税における「源泉徴収票」にあたるものです。
年末調整は所得税の手続きであり、住民税のものではありません。
そのため、役員や従業員それぞれが住んでいる自治体に「給与支払報告書」を提出し、住民税の計算ができるようにします。
それがこの手続きですが、毎年1月中におこないます。
償却資産税の申告
償却資産税とは固定資産税のことです。
固定資産税は建物・土地にかかるのはもちろんですが、事業でつかっている固定資産にもかかります。
具体的には単価10万円以上のものが対象になります。
毎年1月1日にもっている固定資産を、1月中に会社のある市区町村役場(東京都23区は都税事務所)に申告します。
償却資産税についてより詳しくはコチラの記事もどうぞ。
(参考記事)償却資産税とは?
では、ここまで書いてきた手続きを自分で行うにはどうするかをみていきましょう。
税務手続きを自分で行うには
あらためて必要な手続きを整理すると、次のとおりです。
- 法人税等の申告・納付
- 役員報酬の変更
- 源泉所得税の納付
- 住民税の納付
- 年末調整
- 法定調書の提出
- 給与支払報告書の提出
- 償却資産税の申告
それぞれをどうすればよいか解説します。
法人税等の申告・納付
税金の申告書をつくる前に、会計データ(=帳簿)をつくらなければなりません。
そのときカギになるのが「貸借対照表」です。
個人は「貸借対照表をつくらない」ことができますが、法人は「貸借対照表が必須」です。
そのため、複式簿記をつかって会計ソフトへ入力していかなければなりません。
手書きでも不可能ではないですが、かえって難しいことになると思います。
そのため次のことが必要になります。
- 会計ソフトを導入する
- 簿記を勉強する
会計ソフトは個人向け・法人向けとわかれているので、「法人向け」を選びましょう。
簿記の勉強については「日商簿記3級のテキストをざっくり読み」、分からないことが出てくるつど読み返す・インターネットで調べるなどしてやってみましょう。
なお、消費税の申告書は会計ソフトでつくれます。
なので、それぞれの仕訳を入力するときに「消費税の区分があっているか」をチェックしましょう。
(参考記事)会計ソフトの税区分を入力する前に最低限知っておくべきこと
ここまでが完成したら、税金の申告書をつくっていきます。
申告書は手書きでもつくれますが、会計ソフトとは別に「税務ソフト」も存在します。
もし無料でつくるなら、e-Tax(法人税・消費税)eLTAX(住民税・事業税)を試してみましょう。
ただ、税務の知識がすくないかたにとってはハードルが高いと感じるかもしれません。
なので会計データがあるていど出来た段階で、税務署や都道府県税事務所へ相談にいって「申告書にはどんな書類が必要か」の目安をつけてからやった方がよいと思います。
というのも、これらの税金にはかなりの種類の用紙が存在するので「どの書類をつくればよいのか」を理解するのがまず一苦労だからです。
かりに税務ソフトを導入しても、この問題は残ります。
なのでお金をはらう前に、この点について目安をつけておくのがよいでしょう。
なお、後で説明しますが電子申告は準備に1か月ほどかかります。
そのため、目安をつけるにしても、すべての作業をできるだけ早く終えるように気をつけてください。
そして申告書が完成したら提出をしますが、「紙で提出と電子申告」どちらにするかも検討しましょう。
もし電子申告をするならe-Tax、eLTAXでもできますし、税務ソフトでもできます。
ですが、それぞれ互換性はないので「申告書をつくったほうで電子申告」しないとせっかく申告書をつくっても無駄骨におわってしまいます。
ここまでを踏まえて「申告書をどうつくるか」を検討しましょう。
税金の納付については、申告の期限がちかづいてきたら納付書が送られてきますので、それを使いましょう。
役員報酬の変更
役員報酬を変更するときは、株主総会の議事録をつくりましょう。
ひな形は書籍やインターネットでも手に入ります。
社長一人や家族で会社を経営している場合、役員報酬をかえることに反対するかたは誰もいないはずです。
そのため「議事録なんか作らなくても……」と思ってしまうかもしれません。
ですが、税務調査でチェックされることもありますし、後日に振り返ってつくるのも大変です。
ことあるごとに議事録をつくる。
地味に大事なことなのです。
源泉所得税の納付
源泉所得税を納付するには、まずは自分で納付書をつくる必要があります。
そのため、いくら源泉所得税があるのかを集計しなければなりません。
役員報酬や給与については、給与の明細を参照しましょう。
士業などスペシャリストへの支払いについては、相手から届いた請求書を確認しましょう。
もし余裕があれば、すべての取引を会計ソフトに入力してから納付書をつくったほうがよいです。
なにかがモレていたりして、会計ソフトの数字と納付書がズレる可能性もなくはないからです。
なお、この納付書はe-Taxでもつくることができ、キャッシュレス納付も可能です。
調べる時間の余裕におうじて検討しましょう。
住民税の納付
住民税の納付書は、役員や従業員それぞれが住んでいる自治体から5月頃に送られてきます。
それをつかって納付しましょう。
年末調整
年末調整は、次の3段階にわけておこないます。
- 役員や従業員に扶養申告書一式を書いてもらう
- 年末調整する
- 源泉徴収票をつくり、それぞれに渡す
どんな書類が必要かは、税務署から郵送される「年末調整のしかた」というパンフレットに載っています。
もし郵送されないときは、国税庁ホームページで確認するのがよいでしょう。
そして年末調整ですが、「給与計算ソフト」で次のものをつかうのが楽です。
- 年末調整の機能があるもの
- 源泉徴収票を作成できるもの
もちろん手計算で年末調整もできますし、国税庁ホームページから源泉徴収票をダウンロードすることもできます。
これなら無料でできますが、年末調整を手計算でうまくできるかを検討してからにしましょう。
つまり、所得税の計算をあまり苦労せずにできるかどうか、です。
法定調書の提出
この手続きについては、毎年9月あたりに国税庁が「〇年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」というパンフレットを公表しています。
必要なことが載っていますので、まずはこのパンフレットを確認しましょう。
提出しなければならない法定調書には、相手の名前はもちろん住所なども記入します。
なので、この作業をはじめる前に、1月~12月(会社の年度ではないです)の間の給与明細・領収書・請求書などをそろえておきましょう。
なお、法定調書はe-Taxでつくることもできます。
ですが量がすくなく、e-Taxの操作に不安があるときは、手書きでやったほうが早くできるかもしれません。
給与支払報告書の提出
給与支払報告書をどうやってつくるかですが、対応している給与計算ソフトもあります。
また、源泉徴収票はよく似ているので、それをもとにeLTAXでつくるのもよいでしょう。
給与支払報告書を提出する際には、まとめに相当する「総括表」とよばれる書類も添付します。
この総括表は、自治体ごとに様式がちがうときがあります。
もし手書きでつくるなら、あらかじめインターネットでダウンロードして必要な情報を整理しておきましょう。
償却資産税の申告
償却資産税の申告書については、まずは自治体が公表している「手引き」を手に入れましょう。
また、この申告にそなえて普段から「固定資産の一覧」をつくっておきましょう。
これを「固定資産台帳」と一般的にはよび、次の情報が必要になります。
- 建物、工具器具備品などの区分
- その資産の名称
- 事業供用日……つかいはじめた時期
- 取得価額
- 耐用年数(償却率もあわせて)
- 償却方法……定額法、定率法など
- 期首の帳簿価額
- 期中の変動
- 今期の減価償却費(限度額もあわせて)
- 期末の帳簿価額
- 今期末までの減価償却費の累計
なお、単価10万円以上30万円未満のものは、法人税では全額を経費にできる特例があります。
ですが、償却資産税にはこの特例はなく、この特例をつかったものも申告が必要になります。
固定資産台帳をつくるときは、この特例をつかったものも記載しておくことを忘れないようにしましょう。
償却資産税の申告書は、eLTAXでつくることもできますし税務ソフトも存在します。
この点については、手引きをみて作業をイメージし、それから判断しましょう。
電子申告について
e-TAX、eLTAXで電子申告するときは、事前にパソコン環境などをととのえておく必要があります。
とくに電子証明書は、申請から手元に届くまで1か月くらいはかかります。
また、パソコンにインストールしなければならないものもあります。
期限を過ぎてしまいそうなときは紙にプリントして提出するのもアリですが、電子申告の準備も時間がかかることに注意しておきましょう。
まとめ
法人を運営していくうえで最低限必要な税務手続きにはどんなものがあるか。
そして、それを自分で行うにはどうするか、について解説しました。
まずは1年の予定をたてるところから始めましょう。
※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。
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