インボイス制度:簡易課税のとき値引き交渉はできるのか

  • 消費税の納税が増えないけど、値引き交渉ってアリなの?

 

インボイス制度が始まると、免税事業者への支払いは値引き交渉をする必要がでてきます。

もし、そのままの支払い額で取引を続けると、消費税の納税が増えてしまうからです。

 

しかし、簡易課税をつかっているなら、インボイス制度が始まっても消費税の納税への影響はありません。

そのため、値引き交渉の理由もないのです。

ムリに値引きをしてしまうと、独占禁止法にある優越的地位の濫用にあたる可能性がでてきます。

 

簡易課税ならインボイス制度の影響はない

消費税を、いくら税務署へ納めるか……?

 

基本的な計算方法

基本的には、売上などで受け取った消費税から、経費などで支払った消費税をマイナスし、その残りを納めます。

  • 受け取った消費税 ー 支払った消費税 = 納税額

 

インボイス制度が始まったあと、「免税事業者への支払い金額を変えずにいると」今よりも消費税の納税が増えることになります。

というのも、免税事業者への支払いについては、算式が次のように変わるからです。

  • 受け取った消費税 ー (支払った消費税×○○%) = 納税額

 

○○%がどれくらいかは、時期により、次のとおりです。

  • インボイス制度開始後、最初の3年間……80%
  • 次の3年間(4年目~6年目)     ……50%
  • インボイス制度開始後、7年目以降 ……0%

 

そこで、免税事業者に対して「うちの納税が増えてしまうため、値下げをしてくれないか」と交渉したくなるはずだと思うのです。

もちろん、値下げの要求は義務ではないので、しなくてもよいのですが。

 

簡易課税の計算方法

ところで、消費税の計算方法は、上記のほかに、簡易課税という方法もあります。

算式は、次のとおりです。

  • 受け取った消費税 ー 受け取った消費税×○○% = 納税額

 

上記の算式をまとめると、受け取った消費税の△△%を納める、となります。

算式の○○%は業種により変わりますが、ポイントは「支払った消費税は計算で使わない」という点です。

経費など支払いにかかる消費税を計算しなくてもよい、という点で簡易なのです。

 

つまり、免税事業者への支払いがあっても、消費税の納税が増えることはないのです。

 

簡易課税でも値引き交渉の動機はある

簡易課税を使っている場合でも、免税事業者と値引き交渉をする、という動機はあります。

 

事業の規模を知られたくない

簡易課税は、2年前の売上が5,000万円以下の年度で使うことができます。

「うちは簡易課税だから、値引きはしないよ」と言うのは、「うちの売上は5,000万円以下だよ」と言っているのと同じです。

これが気になる、という気持ちもわかります。

 

簡易と原則が交互になる

売上が5,000万円前後で推移していると、消費税の計算方法が毎年かわる、ということもあり得ます。

簡易課税なら値引きをしないが、原則的な計算方法のときは値引きを依頼するとなると、どうでしょう。

 

事務の手間も、けっこう大変だと思います。

とくに年度が変わるときは、経理の方の残業代が増えてしまうこともあるかもしれません。

いろいろ面倒くさいから、計算方法にかかわらず値引きをお願いする、ということもわかります。

 

優越的地位の濫用

インボイス制度をきっかけとする値引き交渉は、「うちの納税が増えてしまうから値引きしてほしい」が理由です。

簡易課税の場合は消費税の納税が増えるわけではないので、基本的には値引き交渉の理由がないのです。

それにもかかわらず値引きしてしまうと、独占禁止法で定める「優越的地位の濫用」にあたる可能性があります。

ちなみに罰則もありますが、優越的地位の濫用にあたるかどうかを考えるときのポイントは、主に次のとおりです。

 

相手より有利な立場にいるか

優越的地位の濫用は、自分が相手よりも有利な立場にいるときに、無理を通すような場合が該当します。

もし、こちらの依頼を、相手が選べる・断ることができる状況にいるなら、該当しません。

 

納税が増えた分以上の値引きは、基本的にはダメ

インボイス制度を理由にするなら、増えた納税以上の値引きは、優越的地位の濫用にあたる可能性があります。

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

(免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&Aより)

 

もし、それ以上の値引きをするなら、その理由はインボイス制度ではないでしょう。

ただ、インボイス制度をきっかけに増えてしまう経費や手間などもあるかもしれません。

その分も織り込んで値引き交渉をするのは、アリじゃないかと思っています。

大事なのは「双方納得の上で取引価格を設定」することです。

 

一方的な通告だけではダメ

値引きするにあたっては、相手との相談・同意が必要です。

「あなたの返事にかかわらず、値引きします」ではダメなのです。

 

まとめ

インボイス制度が始まったあと、免税事業者への支払い額を変えずにいると、今よりも消費税の納税が増えます。

しかし、簡易課税をつかっているなら、今と変わりません。

 

多くの方が値引き交渉をしている中、簡易課税をつかっているなら値引き交渉の理由は、基本的にはないのです。

もし、値引き交渉をするなら、その理由はインボイス制度ではないことになります。

優越的地位の濫用という問題もありますので、値引き交渉はその点も踏まえておこなうのがよいですね。

 

※ 記事作成時点の情報・法令等に基づいております。