経費を前倒しで計上することによる節税(短期前払費用)

決算が近づき、利益の見通しが立ってくると、少しでも節税したい気持ちになってくると思います。

そんな時に、もしかしたら使えるかも、という方法をご紹介します。

短期前払費用と言いますが、決算月でもギリギリ間に合う節税対策として、割とポピュラーな方法です。

 

経費を前倒しで計上し、税金を減らす方法なのですが、まずは経費の基本的なところからみていきましょう。

なお、今回取り上げる「経費」は、家賃や駐車場代、保険料、リース料、利息のようにサービスを受ける場合のものであり、仕入や消耗品費などのようにモノの購入は含まれません。

 

そもそも経費はいつ計上するのか

収入-経費=利益

この利益の計算に組み込むことを「計上する」と言いますが、そのタイミングは「サービスの提供を受けた時」です。

お金を支払った時ではないのです。

 

とは言っても、サービスを受けたはいいが、あやふやな事が残っているような状況も場合によってはありますよね。

そこで、次の3つの条件をすべて満たしている必要があります。

1.債務が成立していること

  相手と契約を結んだり発注をしていること

2.具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること

  サービスを受けていること

3.金額を合理的に算定できること

  請求書や見積書などから金額が分かっていること

 

決算間際に駆け込みでサービスを受けるようなときは、書類が揃わないなどの理由で見積もりで経費を計上することもあります。

そういった場合でも、利益を操作できてしまうような余地を与えないために、このような固いルールになっている訳です。

 

経費を前払いしたときは基本にどうなる?

お金を前払いし、しばらく後になってからサービスの提供を受けるような場合です。

このような場合は、お金を払った時点では経費になりませんので、サービスの提供を受けるまで待つことになります。

年度を跨ぐ時期にこのような取引があるときは、決算でも注意が必要です。

どちらの年度の経費になるのかは、税務調査でもよく話題になりますので。

 

短期前払費用の特例とは?

前払いした経費の中に「前払費用」と呼ばれるものがある

一口に経費の前払いと言っても、家賃のように継続して契約が続くものがあります。

そういうものを会計では「前払費用」と呼び、単発的な経費の前払いとは区別しています。

 

「しばらくは、これ位の金額を前払いしながら事業をしていくよ」という事を、その事業の計算書類を見る方に知らせるためです。

正確には、次の条件を満たすものとなります。

1.一定の契約に従い、継続的にサービスの提供を受けるもの

2.翌期以降に、時が経つのに応じて経費になるもの

3.今期に支払いが済んでいるもの

 

「前払費用」の中に「短期前払費用」と呼ばれるものがある

「短期」というのは「1年以内」ということです。

つまり、前払費用の中でも1年以内にサービスの提供を受けるものを「短期前払費用」と呼び、さらに区別しています。

 

短期前払費用は、サービスの提供を受けた時ではなく、お金を支払った時に経費にしても良いという特例があるからです。

本来よりも早く経費に計上できるのですが、前払費用の条件に加え、さらに次の条件を満たす必要があります。

1.毎期継続して同じ処理をすること

2.重要性の大きくないもの

3.収入と対応させる必要がないもの

 

特例が使えない場合

1.契約に基づいていない場合

  月払いの契約なのに、こちらの都合で勝手に1年分を前払いしてしまっても、契約に基づいていないため、特例は受けられません。

  このような時は、相手と相談して、契約を変更しましょう。

 

2.例えば2年分の家賃を前払いする場合

  〇年分を前払いしたうちの1年分が経費になる、ということではないのです。

  支払ってから1年以内に全てのサービスを受ける必要があります。

  少し言葉遊びのような感じがすると思いますが、残念ながらそういうルールになっています。。。

 

3.借りた物件を又貸しする場合(社宅など)

  このようなときは、又貸しによる収入と支払った家賃を同じ年度で計上する必要があるため、特例は受けられません。

 

3.一定の契約でない場合

  一定の契約というのは、家賃や保険のようにサービスが等質・等量であることを意味します。

  ですので、弁護士や税理士の顧問料などは、特例を受けられません。

 

4.重要性が大きいもの

  重要かどうかは、金額と内容の両方で判断します。

  例えば、役員報酬や給与は、たとえ金額が小さくても、事業においては重要なものですので、特例は受けられません。

 

5.黒字のときは特例を使い、赤字のときは特例を使わない

  継続して同じ処理をする必要があるのは、利益の操作を防止するためです。

  この特例は、重要性が大きくないものは経理の手間暇を省いても良いよ、という趣旨から設けられたものでもあります。

  ですので、このような場合は、特例を受けられません。

 

気を付けたいこと

1.トータルの経費は変わらない

  どこかのタイミングで「1回だけ」経費を前倒しで計上する方法ですので、トータルの経費は変わりません。

 

2.契約を途中で解約する可能性はないか

  1年分を前払いしてしまうと、解約するときに揉める可能性はないでしょうか。

  家賃であれば、引っ越しの事も考慮しておく必要があります。

 

3.お金が回るかどうか

  まとまった金額を前払いするときは、普段の資金繰りだけではなく、業績が悪化した時のことも想定しておく必要があります。

 

どう活用するか

決算月に、家賃や保険料などを1年分前払いし、この特例を使うのがポピュラーですし、節税の効果も最も大きくなります。

 

ただ、お金・資金繰りの状況はどうでしょうか。

業績の見通しはいかがでしょうか。

大事なのは税金を払った後の手取りですので、このあたりまで含めて考慮する必要があります。

決してムダな税金を払う必要はありませんが、節税という言葉につられて行動を変えるのではなく、何かの取引を始めるときの選択肢の一つとして持っておくのが良いのかなと思います。

 

※ 記事作成時点の情報・法令等に基づいております。