会社から個人事業主に戻る方法とメリット・デメリット【個人成り】
- 以前、法人成りしたけど、あまりメリットがなかった
- 会社の売上が少なくなってきた
- 会社の維持費などが大きいので、個人に戻りたい
- 将来の引退を考えると、会社をやめておきたい
他にも理由は考えられますが、このようなときは会社をやめ、個人事業主に戻った方がよいケースもあります。
それにあたり、個人事業主に戻る方法、メリット・デメリットを解説します。
目次
個人事業主に戻るには
同じ事業を、会社と個人の両方でやるということは、基本的にはありません。
そこで、次の2つの手続きを行います。
- 会社の活動をストップする
- 個人の開業の手続きをする
会社の活動をストップする
会社の活動をストップするには、会社自体をたたむ方法と、会社は残すが休眠する方法の2つがあります。
会社をたたむ
会社をたたむには、解散・清算と2つのステップを踏みます。
「会社をやめる」といっても、すぐにできる訳ではないのです。
解散は宣言のようなものですが、これを機に、会社は営業活動をストップし、すべての財産をお金にかえて株主に戻す準備(清算)に入ります。
なお、会社を設立するときに登記費用などがかかりますが、解散・清算するときもかかります。
- 登記の費用……41,000円
- 会社をたたむことを官報に載せる費用……約40,000円
- 専門家への料金
これらを合わせると15万円~数十万円をみておいた方がよいでしょう。
また、かかる期間は、会社の財産にもよります。
会社の財産は株主にもどす訳ですが、モノではもどせません。
お金でもどします。
ですので、お金にかえにくいものがあれば期間は延びますし、換金しやすいものであれば期間は早まります。
ただし、会社の解散を官報に2か月以上は載せることになっているため、会社を完全にたたむまでには最低でも3か月程度はみておきましょう。
会社を休眠する
会社は存在しながらも、営業などの活動はしないのが「休眠」です。
会社がなくなる訳ではないので、後から事業を再開することもできます。
なお、手順は次のとおりです。
1.会社の活動を完全にストップする
2.税務署への届出
- 異動届(休眠の旨)
- 給与支払事務所等の廃止届
- 消費税の納税義務者でなくなった旨の届出
3.都道府県税事務所、市区町村役場への届出
- 異動届(休眠の旨)
4.社会保険の手続き
会社が休眠している間にも、次のことには注意が必要です。
1.税金の申告
収入などがゼロでも行います。
これをしない場合は、青色申告が取り消しになりますし、将来に復帰したときに欠損金の繰り越し控除ができなくなってしまいます。
2.登記のこと
役員には任期があるため、任期が終わったら再任などの登記が必要です。
また、最後の登記から12年以上なにもない株式会社は、法務局で勝手に「解散した」と処理されてしまうことがあります。
そして、さらに3年放置すると、清算するしかなくなります。
意外に怖いのが、この登記です。
3.住民税(均等割)
住民税(均等割)は、黒字・赤字にかかわらず支払うものですが、休眠中は免除される自治体があります。
都道府県税事務所に異動届を出す際に、確認しましょう。
個人の開業手続き
会社のように登記は必要ありません。
業種により許認可などが必要なケースもありますが、基本的には次の手続きが必要になります。
- 開業届
- 青色申告承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
開業当初からインボイスを発行するためには、次の手続きも必要です。
- 適格請求書発行事業者の登録申請書
- 消費税 課税事業者選択届出書……(時期により必要ない場合もあります)
また、会社で使っていたものを、個人でも使いたいときは、会社から買い取る必要があります。
メリット
個人の方が税金が少ない
法人化することによる節税は、基本的には、所得を法人と個人に分散させることによります。
もともとの所得が多くない場合は、すべての所得を個人のものにした方が、トータルの税金が少なくなることもあります。
また、法人と違い、個人の事業税は、所得が290万円までかからないというメリットもあります。
社会保険が少なくなる
法人は、健康保険・厚生年金への加入が義務であり、保険料は法人・個人で半分ずつ支払います。
個人事業主に戻る場合は、国民健康保険・国民年金へ加入し直すことになり、保険料はすべて個人で支払います。
法人で負担する保険料も含めてトータルでみた場合、個人事業主に戻ったほうが、社会保険料は少なくなります。
消費税が2年間免税となる
2年前の売上が1,000万円を超えると、消費税を納めることになります。
この判断に、会社の売上は含めません。
そこで、最大2年間は、消費税を納めなくてもよいことになります。
しかし、免税事業者はインボイスを発行することができません。
その場合は手続きをすればインボイスを発行できますが、消費税は納める必要があります。
お金を自由に使えるようになる
会社のお金は、社長や役員のものではありません。
うっかり、会社のお金でプライベートの支払いをすると役員報酬になったり、会社と役員の間で貸し借りの記録を作ったりする必要もありました。
個人事業主にもどれば、足枷のようなものはなく、口座のお金はすべて自分で好きなように使うことができます。
計画的に事業を縮小できる
後継者がいない場合や、将来の引退を考えたとき、早めの段階で個人事業主に戻れば、後が楽になります。
上記で述べたように、会社をたたむには、時間もお金もかかってしまいますから。。
デメリット
信用度が法人より少なめ
要は収入が減ってしまわないか?という問題です。
法人としか取引をしないケースもあるため、いくらか根回しをすることで回避できるのか、といったことは事前に検討しておきましょう。
また、許認可が必要な事業のときは、個人に戻るときに取り直しができるのかも確認が必要です。
厚生年金には入れない
個人で厚生年金には入れないため、将来の年金は減ります。
国民年金の上乗せである国民年金基金や私的な生命保険などの活用を検討しましょう。
給与所得控除は使えない
会社からの役員報酬にかかる税金を計算するときは、役員報酬からも経費にあたるもの(=給与所得控除)をひくことができます。
いわゆるサラリーマンでも、個人事業主にように経費がかかるだろう、ということで設けられている仕組みです。
実際のレシートなどを集計する必要はなく、収入に応じて自動で給与所得控除が決まります。
ですので、領収書のいらない経費、とも言えるのです。
このメリットは、個人事業主に戻ることにより受けられなくなります。
会社の赤字は引き継げない
赤字は将来の黒字と相殺できます。
通常は「売上ー経費=所得」と計算するところ、「売上ー経費ー過去の赤字=所得」と計算できるのです。
会社と個人は別の人ですので、会社の赤字は個人の税金の計算に使うことはできません。
※ 記事作成時点の情報・法令等に基づいております。
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