法人成りするときに検討すること【メリット・デメリット】
個人事業をやっているんだけど、会社にしようかな……
そんなときに考えて欲しいことを、まとめました。
目次
法人成りとは
法人成りとは、個人事業主が会社(法人)を設立し、その法人が、個人として行っていた事業を引き継いで行っていくことを言います。
まるで個人が法人に成り代わるようなので、こう呼んでいます。
単に法人を設立した場合はゼロからスタートすることになりますが、法人成りの場合は、個人の事業を引き継ぐという点に特徴があります。
引き継ぐわけなので、個人の持ち物を法人に移す処理が必要となりますが、事業の基盤がすでに出来上がっているところからスタートできるという有利な面もあります。
メリット
信用度が上がる
個人で事業を始めるときは開業届を出すのみですが、法人を設立するためには費用(株式会社で約20万円、合同会社で約10万円)をかけ、書類を整え、登記しなければなりません。
また、登記された事業の目的や本店所在地、誰が役員かなどは、登記簿を取ることにより誰でも分かります。
いろいろなコストをかけ、法人の内容を公表することにより、個人事業よりも信用度が上がります。
金融機関の融資や補助金・助成金の申請などでも、法人の方が有利です。
※ コロナ関連の持続化給付金では、上限が法人200万円・個人100万円となっていました。
責任は有限
個人事業主は、事業がうまくいかず、仕入や経費の支払い・借入金の返済などが出来ない場合には、家などの個人の財産を売るなどして、とにかく全部を支払う必要があります。
これを「責任は無限」と表現します。
一方、株式会社や合同会社は、法人の財産で支払いが出来ない場合は、そこで倒産となり、支払いもそれ以上する必要はありません。
(法人の株主や出資者にとっては、株式や出資がゼロになります)
個人と違い、プライベートの財産は守られるのです。
これを「責任は有限」と表現します。
ただし、借入金について経営者が連帯保証している場合には、実質的に無限責任に近いものがありますし、合名会社や合資会社の場合には、無限責任を取らなくてはいけない方が存在します。
事業の承継がしやすい
個人の場合に事業を引き継ぎしようとすると、事業用のモノを引き継ぎ相手に売ったり、許認可などを取り直し、廃業と開業の手続きをする必要があります。
一方、法人の場合には、モノや書類に関する手続きが不要で、経営者を変えればよいだけなので、事業の承継がしやすいと言えます。
※ 「事業」の承継とは別に「法人」を承継させるためには、株式の贈与や売却をする必要があります。
決算月は任意
個人は、1月~12月の収入・経費などで税金を計算し、3月15日までに申告をします。
法人の場合は、この期間(〇月~〇月)を自由に決めることが出来ます。
年末年始や事業が忙しい時期に決算をしなくても良いのです。
税金面では
● 給与所得控除を活用できる
個人事業主のときは、事業の儲けはすべて自分のものですが、法人成りすると、事業の儲けは法人のものとなります。
そこで、法人から役員報酬を取ることになります。
この役員報酬についても税金がかかるのですが、「売上ー経費=儲け」と同じように計算します。
この計算は「役員報酬ー給与所得控除=儲け」となるのですが、給与所得控除についてレシートや領収書を集める必要はありません。
役員報酬の金額に応じ、55万円~195万円の範囲で、自動で決まります。
法人と個人をトータルで考えてみましょう。
個人事業主のときの経費はすべて法人で計上され、さらに給与所得控除という経費のようなものが追加で取れる、ということになるのです。
● 退職金を支給できる
個人事業主は、自分に退職金を出すことはできません。
一方、法人は個人とは別の人(という概念です)なので、言ってみれば自分に退職金を出すことができるのです。
退職金にも役員報酬と同じく税金がかかりますが、計算方法の違いにより強い優遇を受けることができます。
すごく長い期間のトータルでの節税となりますが、法人成りするなら必ず想定して欲しいものです。
● 欠損金の繰り越しは10年間できる
個人も法人も、事業の赤字は、将来の黒字と相殺することができます。
通常は「売上ー経費=儲け」と計算するところ、「売上ー経費ー過去の赤字=儲け」と計算できるのです。
赤字をどれくらい将来に繰り越すことができるか?という期間が、個人と法人では違います。
個人は3年、法人は10年なのです。
赤字が大きな場合に3年では消化できないケースを防げますし、役員報酬の設定を交えた税金のコントロールの幅も広がります。
● 配偶者控除・扶養控除も使える
個人が家族に給与を支払うためには、専従者の条件を満たす必要があり、支給した場合は配偶者控除や扶養控除が利用できません。
一方、法人から家族に給与を支払う場合は、週に2日程度の仕事でも構いませんし、支給した場合でも(金額によりますが)配偶者控除や扶養控除を利用することができます。
● 資本金が1,000万円未満なら、設立1期目・2期目は消費税が免税
消費税の申告・納付は、基本的に、2年前の売上が1,000万円を超える方が行います。
法人を設立した場合、個人事業主のときの売上は法人のものではないため、設立1期目・2期目は2年前の売上がないことになり、消費税の申告・納付も必要ありません。
法人成りの場合は、事業主が個人から法人に変わりますが、事業の中身は同じです。
個人のままでいたら納めなくてはいけなかったものが、法人成りすることにより不要となるので、2年分トクをすると言えます。
ただし、このルールは資本金が1,000万円以上の法人には適用されません。
また、インボイス制度の導入により、この点はむしろデメリットとなる可能性があります。
● 税金をコントロールしやすくなる
個人事業主のときは、一部を専従者給与として家族に分けることが出来るとはいえ、事業の儲けはすべて自分のものでした。
一方、法人成りすると、自分や家族への役員報酬を、自分で決めることが出来ます。
※ 金額について、仕事の内容や世間相場などを考慮する必要があるという税務上のルールがありますので、いくらでも良い訳でもないのですが……
役員報酬の設定は、年度が始まってから3か月以内にする必要があるため、将来の見込みを考える必要がありますが、法人と個人それぞれの税金をコントロールしやすくなるのです。
デメリット
設立費用がかかる
個人の事業は、開業届を出すだけで始めることができます。
法人成りするためには、法人を設立するための費用(株式会社で約20万円、合同会社で約10万円)が必要となります。
また、設立費用に加えて、資本金も必要です。
これだけのことをするから、世間での信用度が高くなるわけですが……
社会保険への加入が義務になる
個人であれば、従業員が5人未満の場合などは、社会保険に加入する必要はありません。
法人成りすると、社長1人しかいない場合であっても、社会保険の加入は義務となります。
事業で負担する社会保険料が増えるのです。
ただ、これは厚生年金に加入できるというメリットとも言えます。
事務手続きは増える
法人成りすると「書類を整える」ための手間暇が、個人よりも増えます。
その結果、世間の信用度が上がるとも言えますが。
たとえば一人社長の場合、株主としての自分、経営者としての自分はそれぞれ別の人間という見方をします。
会社にとって大事なことは、経営者が勝手に決めることはできず、株主の了解を得なければなりません。
そういうことを記す書類を株主総会の議事録と言いますが、後から見せてと言われることもあるので、その都度、作っておく必要があります。
また、自分に対する役員報酬の明細なども作る必要があったりなど、書類を作る手間暇が確実に増えます。
税金面では
● 赤字でも税金がかかる
個人の場合は、赤字であれば、税金はかかりません。
(消費税は、簡易課税や経費の内訳などによってはかかりますが……)
法人は、赤字であっても、住民税(均等割)が最低でも7万円かかります。
※ 法人の資本金や規模により、均等割の金額は変わります。
● 経理は複式簿記が必須になる
個人の場合は、必ずしも複式簿記によらなくてもよいのですが、法人の場合は必須となります。
手書きで行うのは現実的ではないので、会計ソフトを導入するか、誰かに依頼するか、ということを考えておきましょう。
● 会社のお金は自分のものではない
個人であれば、通帳のお金は、事業・プライベートにかかわらず、自由に使えます。
一方、会社のお金は、経営者が通帳を管理しているとはいえ、経営者のものではありません。
経営がピンチのときは自分がお金を出すんだけど……ということもあるでしょうが、区別はキッチリしておく必要があります。
(これがゆえに、個人よりも法人が融資を受けやすい、とも言えます)
※ 記事作成時点の情報・法令等に基づいております。
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