「分かりやすい」は時に悪。「分かりにくい」も大事。
分かりやすさは、求められることが多く、武器にもなるものです。
でも、大事なもの・価値があるものは、分かりにくさを乗り越えた先にあるのかもしれません。
「分かりやすい」は時に悪
- 分かりやすい○○
- ○○をわかりやすく解説
- ○○が、すぐに分かる
調べものや探し物をしているとき、こうした言葉には興味をひかれてしまいます。
分からないことを、ゼロからはじめて「分かった」まで持っていくのって大変ですからね。
分かりやすさが助けてくれれば、時間の節約にもなるし。
こうした「分かりやすさ」は、説明も仕事にふくまれるかたにとっては武器になるものです。
税理士も、たんに税金の計算をするだけではありません。
税金や節税のしくみ、そこから生じるお金や数字への影響も説明しなければなりません。
かぎられた時間のなかで。
そうでなければ、選択肢があるときに、選ぶことができません。
税金がお金や数字およぼす影響がわからなければ、備えをすることもできません。
知らずに、使ってはいけないお金を使ってしまえば大変です。
なにか伝えることがあるときに、その説明が分かりにくいとどうなるでしょうか。
分からないまま、帰ってしまうかもしれない。
「もういいや」と諦めてしまうかもしれない。
おなじ間違いを、繰り返してしまうかもしれない。
このようなことにならないためにも、「分かりやすさ」は大事です。
でも、そんな「分かりやすさ」も時には悪だったりします。
というのも、分かりやすくするために、物事をシンプルにすることもあるからです。
こまかい条件などを、切り落として。
たとえば、「30万円未満のモノは、買ったときにすべて経費にすることができる」というルール。
ほんらいは減価償却するものを、1年ですべて経費にできるという特例です。
年度末に、思ったよりも利益がでていたとき、前倒しなどでモノを買えば、そのぶん利益がへる。
なので税金もへる。
ムダづかいになる可能性もあるので、あまりおススメはできないものの、とりあえずの節税として有名なルールです。
このルールも、じつは次のように隠された条件があります。
- 対象は、法律で定義された「中小企業者等」であること
- 商品のように、そもそも減価償却しないものは特例の対象にならないこと
- 「1つあたりの取得価額」が30万円未満であること
- 取得価額が「10万円未満」のものは、この特例によらずとも全額を経費にできること
- 金額が税込みか税抜きかは、つかっている消費税の経理方法によること
- 特例がつかえるのは、合計で「300万円」までであること
- 「300万円」は12か月分なので、設立1期目は限度額が変わるかもしれないこと
- 青色申告が必要なこと
- 特例をつかう金額は、経費として計上しなければならないこと
- 申告書には、明細書を添付しなければならないこと
- 「買ったとき」ではなく、「事業の用に供していなければ特例はつかえない」こと
- 貸付け用のものは、基本的にこの特例がつかえないこと
- 取得価額が「20万円未満」のものは、特例をつかわないほうが償却資産税の面で有利なときがあること
- そもそも減価償却をしてもよいこと
「30万円未満のモノは、買ったときにすべて経費にすることができる」の裏には、じつはこれだけの条件があるのです。
でも、すべてのことを調べたり理解するのは大変です。
「30万円未満なら、経費にできる」と言われたほうが、分かりやすいですよね。
でも、ときには条件に当てはまらないものもあるかもしれません。
すると、まちがったお金の使いかたになってしまうかもしれない。
分かりやすさは時に悪……ということもあるのです。
そして、分かりやすさが悪というのは、これだけではありません。
「分かりにくい」も大事。
分かりやすいと感じると、そこから先を掘り下げる気がおきにくいものです。
いちど100点をとったテストを、もういちど復習するような感覚です。
二度手間にかんじるし、掘り下げるにはうんざりするような細かいことを調べなければなりません。
じつは、「分かった気になっているだけ」かもしれないのに。
すると、「何かが身につくチャンスを逃している」のかもしれないのです。
分かりやすさを求めるということは、失敗や苦労を遠ざけるのとおなじこと…ではないでしょうか。
ほとんどの場合、難しいことは、どこまでいっても難しいものです。
説明が分かりやすいからといって、難しいものが簡単になることはありません。
分かりやすいと感じるのは、目に見えているところだけで、目に見えていないところもあるのです。
難しさに気づいていないだけかもしれないのです。
「価値があるもの」ってどんなものでしょうか。
お金や時間をついやしただけで、価値があると思えるときもあるでしょう。
また、価値があるものの、身について当たり前になってしまうと、自覚しないこともあります。
努力や苦労って、意外に忘れるものですから。
喉元過ぎれば熱さを忘れる……といいますし。
自分にとって大事なものは、「分かりにくい」を乗り越えた先にあるのかもしれません。
それを手にいれるには、「分かりやすい」の反対のイメージのものが必要です。
体を動かす、単純なことの繰り返し、時間をかける、苦労、失敗、汗を流す……など。
「分かりやすい」と思ったら、ぎゃくに用心するくらいでいましょう。
自分にとって大事なものを見逃さないために。
「分かりにくい」を何とかしようと思えば、すくなくとも頭や体をつかいます。
自分なりに考える力・対応力も、育てるもの・身につくものですから。
「分かりにくい」も流さずに、大事にしていきましょう。
まとめ
「分かりやすい」は日の目を浴びることがおおく、大事なことに思えるものです。
でも、本当に大事なものは「分かりにくい」を乗り越えた先にあったりします。
それを見逃さないためにも、「分かりにくい」を流さないようにしましょう。
※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。