役員報酬からは何がいくら天引きされるのか
役員報酬からは、税金や社会保険料が天引きされます。
具体的にどんなものがいくら天引きされ、手取りでいくらのこるのか…
その計算過程を押さえておきましょう。
目次
役員報酬からは何がいくら天引きされるのか
役員報酬から天引きされるのは、次のものです。
- 健康保険(介護保険料をふくむ)
- 厚生年金
- 源泉所得税
- 住民税
3番目にある源泉所得税は、社会保険(健康保険と厚生年金)がわかっていないと計算できません。
なので、上記の順で計算するようにしましょう。
なお、以下の解説は、毎月の役員報酬が「20万円」という前提ですすめていきます。
健康保険(介護保険料をふくむ)
健康保険は、協会けんぽに加入するものとします。
その協会けんぽでは、都道府県ごとに金額がかわります。
令和6年度(2024年度)で、東京都にお住まいなら、つぎの表をつかいます。
ネットで探すときは、「社会保険料率」と検索してみましょう。
健康保険は、毎月の役員報酬をもとに計算されるものではありません。
基本的には、4月~6月の平均値によりきまった金額が、おなじ年の9月から天引きされる…
このようなサイクルになっています。
このとき、「4月~6月の平均値」は「報酬月額」として表にあらわれます。
その行を、横にみていった先にあるものが、自分が負担する金額になります。
ただし、健康保険(介護保険も)は、会社と役員で半分づつ負担します。
表の上のほうに、「全額」と「折半額」とあります。
その「折半額」のほうを、天引きすることになるのです。
なお、会社を設立したときは、設立時の役員報酬を、表にあてはめましょう。
それから、介護保険です。
介護保険は、40才以上になると支払うことになるものです。
その40才以上のかたを、「第2号被保険者」といいます。
つまり、40才以上になると、健康保険が高くなる……というわけなのです。
実際に介護保険がいくらなのかは、表のなかの金額をくらべ、差額から割りだしましょう。
なお、65才以上になると、介護保険は年金から天引きするようになります。
そのため、役員報酬から天引きするのは、64才までです。
ここまでをふまえると、役員報酬が「20万円」のとき、健康保険はつぎの金額になります。
(介護保険も払うものとします)
- 11,580円
項目 | 金額 |
役員報酬 | 200,000円 |
健康保険(介護保険をふくむ) | △11,580円 |
(注)「△」はマイナス、つまり天引きにより手取りが減ることを意味します。
厚生年金
厚生年金も、先ほどとおなじ表をつかいます。
その表では、右端にのっています。
また、おなじく会社と役員で半分づつ負担するので「折半額」のほうを天引きします。
役員報酬が「20万円」なら、つぎの金額です。
- 18,300円
項目 | 金額 |
役員報酬 | 200,000円 |
健康保険(介護保険をふくむ) | △11,580円 |
厚生年金 | △18,300円 |
源泉所得税
源泉所得税は、「源泉徴収税額表」のうちの「月額表」をつかって計算します。
この「源泉徴収税額表」は、ネットで検索すれば、すぐにでてきます。
ただし、年ごとに変わるものなので、どの年なのか…には気をつけておきましょう。
令和6年(2024年)なら、つぎのものです。
表の左上に、その月の社会保険料等「控除後」…とあります。
役員報酬から、社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金)をひいた後の金額を、表にあてはめましょう。
役員報酬「20万円」なら、つぎの金額です。
- 200,000円ー11,580円ー18,300円=170,120円
ここだけ電卓でたたくのは、すこし手間になります。
なので、明細をつくるときは、この金額の欄もあるとよいでしょう。
また、源泉所得税は、扶養のかたが何人いるか…によっても変わります。
今回は、「0人」だとします。
すると、つぎの金額になります。
- 3,700円
項目 | 金額 |
役員報酬 | 200,000円 |
健康保険(介護保険をふくむ) | △11,580円 |
厚生年金 | △18,300円 |
源泉所得税 | △3,700円 |
なお、源泉徴収税額表の右には、「乙」という欄もあります。
この乙欄は、2か所以上から役員報酬や給与をもらっているときにつかう金額です。
1か所でしか働いていないときは、基本的には「乙欄」ではなく「甲欄」のほうをつかいます。
うっかり間違えないように、気をつけましょう。
(参考記事)甲欄と乙欄を間違えるとどうなるか
住民税
最後に、住民税です。
この住民税は、自分で計算するのではなく、市役所や区役所などのほうで計算します。
その結果が、5月ごろに会社におくられてきます。
というのも、住民税のサイクルは次のようになっているからです。
- 1年(1月~12月)の所得について、住民税が計算される
- 役員報酬からの天引きは、翌年6月~翌々年5月の12回にわけておこなう
(住民税は、後払い…ということを意識しておきましょう)
ちなみに、1年度分の住民税を12回にわけるとき、100円未満の端数がでることがあります。
その端数は、すべて6月分にくわえます。
つまり、「6月」と「6月以外」の2種類の数字になるのです。
そのため、5月・6月・7月の数字が、それぞれ変わる可能性がおおきいです。
役員報酬の明細をつくるときは、とくに注意しておきましょう。
なお、住民税は後払いのため、会社を設立した年度では、役員個人ではらうことがおおいです。
フリーランスのように。
つぎの表でも「0円」としておきます。
項目 | 金額 |
役員報酬 | 200,000円 |
健康保険(介護保険をふくむ) | △11,580円 |
厚生年金 | △18,300円 |
源泉所得税 | △3,700円 |
住民税 | △0円 |
手取り(差引支給額) | 166,420円 |
役員報酬から天引きするのは、これで終わりです。
明細も、上記のようなものが一般的になります。
ただ、すこし知っておいて欲しいこともあるので、もう少しみておきましょう。
補足
役員報酬については、つぎのことも知っておきましょう。
- 年末調整
- 役員報酬からの天引きが変わる時期
- 雇用保険
- 子ども・子育て拠出金
年末調整
源泉所得税は、住民税とはちがい、前払いです。
そのため、1年分の役員報酬にかかる所得税が、前払いした金額とちがうこともあり得ます。
(ピッタリ合うことのほうが稀です)
なので、1年分の役員報酬から所得税を計算し、前払いである源泉所得税との差額を調整する…
これが年末調整です。
つまり、12月分の源泉所得税は、いつもとは変わることになるのです。
ただ、1年をつうじてみると、役員報酬から天引きするものが変わる時期は、ほかにもあります。
役員報酬からの天引きが変わる時期
1年をつうじてみると、つぎのことで天引きの金額が変わります。
- 年末調整(12月)
- 住民税(6月・7月)
- 役員報酬の変更(年度により時期は変わる)
- 社会保険料率の変更
最後の社会保険の料率ですが、これまでは春に健康保険がかわり、秋に厚生年金がかわる…
このようなサイクルでした。
(料率とは、表にある「%」のことです)
ただ、いまは厚生年金の料率は、据え置きされています。
それでも、春(令和6年は3月でした)には、健康保険が変わる可能性があります。
ここまでをふまえ、役員報酬からの天引きは、2か月に1回くらい変わる可能性があることを知っておきましょう。
役員報酬は、税務上のルールにより、毎月おなじ金額にすることがほとんどです。
それでも、給与明細のほうは、2か月に1回くらいの割合でチェックが必要なのです。
雇用保険
社会保険には、雇用保険もふくまれます。
これは、失業給付や再就職支援などのもとになる保険です。
でも、役員には雇用保険がかかりません。
役員は、会社と雇用契約ではなく、委任契約をむすぶからです。
この契約のちがいについては割愛しますが、役員に雇用保険はかからない…と覚えておきましょう。
子ども・子育て拠出金
健康保険・介護保険・厚生年金は、役員と会社で半分ずつ負担します。
これらの請求は、すべてまとめて会社にとどきます。
その請求のさいには、子ども・子育て拠出金というものが上乗せされてきます。
これは、児童手当などの原資になるものです。
ただ、すべて会社が負担します。
社会保険は、役員と会社で半分ずつ…と書きました。
ただ、会社がすべて負担する子ども・子育て拠出金もふくめて、請求書が会社にとどくのです。
なので、とどいた請求書をみたとき、「あれ、ピッタリ半々になっていない気がする…」ということが起こります。
子ども・子育て拠出金は、料率が「0.036%」なので、ちいさな金額です。
ただ、このようなものが存在することも、知っておきましょう。
まとめ
役員報酬から、何がいくら天引きされるのか…についてみてきました。
税務上のルールにより、役員報酬は毎月おなじ金額にすることがほとんどです。
でも、役員報酬の明細は、2か月に1回くらいの割合でかわることになるのです。
こまかい数字ばかりで大変ですが、間違いをあとで直すのは、もっと大変です。
面倒でも、チェックしておきましょう。
※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。
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