賃上げすると会社の負担はどれくらい増えるか
人手不足の今、賃上げしたい…と気持ちが先行することがあります。
でも、いちど上げた給与は簡単には減らせません。
そんなときは、数字のほうの整理をしてみましょう。
より冷静に判断できるはずですから。
賃上げすると会社の負担はどれくらい増えるか
給与をあげると、それに連動して、つぎの社会保険もあがります。
- 健康保険
- 厚生年金
- 雇用保険
- 労災
これらを合わせると、あげた給与にくわえ、その給与の「15%くらい」会社の負担がふえます。
たとえば毎月の給与を「10,000円」アップするなら、会社から出ていくのは「11,500円」くらいになる。
ただし、おそらくボーナスや退職金の基準もふえるのではないでしょうか。
だから、毎月いくら…ではなく、1年間でいくらふえるか。
こんな視点で、かるく電卓をたたいてみましょう。
なお、給与を上げるまえに、そもそも給与はどこから出すべきかも確認を。
それは売上ではなく、基本的には粗利です。
粗利とは、売上から、仕入れのように売上に直接ひもづく経費だけをひいた利益のこと。
このような経費のことを、売上におうじて変動するため「変動費」とよぶこともあります。
その粗利から給与をだす。
この粗利と給与の関係をとりだして、労働分配率とよんだりもします。
たとえば粗利が「100」で給与が「45」なら、労働分配率は「45%」という風に。
そして、給与をはらったあとの残りで、ほかの経費をはらう。
ほかの経費は、家賃のように、毎月だいたいおなじ金額のものが多くなるので「固定費」とよびます。
ちなみに、損益分岐点という言葉があります。
これは、利益がちょうどゼロになる売上はいくらか…をあらわすもの。
それは、つぎのように求められます。
- 売上・変動費・粗利を「%」におきかえると「粗利率」がわかる
- 固定費を、その粗利率で割り戻す
これが分かると、給与をどれくらいだしてよいのか…の目安になることも多いです。
こんな風に利益がでる仕組みを整理してから、給与について考えてみましょう。
そもそも、どれくらいまでだったら給与をだせるのか…と。
なお、賃上げをすると、法人税が減る可能性もあります。
賃上げ促進税制
しばらく前から、国も賃上げする会社を応援しています。
その一環で設けられたのが、賃上げ促進税制です。
これは、前年度にくらべて増えた給与の15%分、法人税がすくなくなる仕組みのこと。
たとえば前年にくらべて給与が「60万円」増えたのなら、法人税は「9万円」すくなくなる。
ただし、その給与には役員や役員の家族へのものはふくまれません。
家族の給与をあげても、この賃上げ税制はつかえないのです。
また、会社を設立した初年度もつかえません。
前年度がないので、「増えた」ということができないので。
さらに、法人税が少なくなるといっても、もともとの法人税の20%が上限です。
ただ、それを超えた分は、5年間なら繰り越しすることができます。
将来5年の間にはらう法人税をすくなくできる可能性があるのです。
そのためには、たとえば赤字のために賃上げ促進税制がつかえないとしても、申告書には、この賃上げ促進税制の明細をつけておく必要があります。
なお、上で増えた給与の「15%」分の法人税がすくなくなる…と書きましたが。
社員が教育訓練をうけたり、会社がくるみん認定などをうけると、%はさらに増える可能性もあります。
この賃上げ促進税制は、しばらく前に設けられたものです。
当初は、計算方法や条件などが、おそろしく細かくなっていました。
それがいくつかの改正を経て、いくぶん簡便にはなったものの、それでもまだ細かい。
おそらく、この賃上げ促進税制ためだけの、条件の確認表や集計が必要になるはずです。
今回はイメージをつかんでいただくために書きました。
この賃上げ促進税制をきっかけに給与を上げようとするなら、その細かい条件などを確認してからにしましょう。
まとめ
賃上げすると、社会保険の会社負担もふえます。
それは給与の「15%」くらい。
給与を「10,000円」増やすなら、会社からは「11,500円」でていくことになるわけです。
給与というのは、ほかの経費とはちがい、いちど上げると簡単には減らせないものです。
だから、上げるさいには躊躇するものだとおもいます。
一時的には、補助金などを活用することもできます。(調べてみましょう)
でも、それはあくまで一時しのぎ。
完全にとは言わないものの、あるていどの不安をなくすためには。
やはり会社の利益構造、粗利とか損益分岐点を整理してからのほうがよいと思います。
ムリをすると、どこかにツケがきますから。
数字の整理ができれば、きっと、ヒトを大事にしたい気持ち・会社を大事にしたい気持ち。
この2つの気持ちも整理しやすくなるはずです。
もしかしたら、利益をだすための改善策もひらめくかもしれないですし。
人手不足のいま、賃上げしたい…と気持ちが先行することがあります。
そんなときは、いちど数字の整理をして、なるべく冷静に判断できるようにしてみましょう。
※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。

