役員賞与に迷った時の3つの選択肢

役員賞与には、厳しいルールがもうけられています。

ゆえに、金額を決めたとしても、予定日になってなお迷うこともあります。

そんなときに考えられる選択肢には、3つあります。

 

役員賞与の厳しいルール

役員への賞与には、厳しいルールがもうけられています。

もし、なにも手続きをふまず、好きなときに、好きな金額を支給すると…

その賞与は、法人税等を計算するときには、経費とはあつかいません。

 

たとえば利益が「100」のとき、経費の中にそんな賞与が「150」含まれていたとしましょう。

(法人税等は、利益のだいたい30%とされています)

すると、法人税等の計算では、利益は「100」とはなりません。

賞与「150」が経費には含まれないので、利益は「250」として法人税等が計算されるのです。

 

つまり、割高な税金をはらうことにつながる。

会社にとっては、「節税の逆」をいくことになるのです。

 

そもそも税務署側が懸念しているのは、役員賞与をつかった利益の調整。

たとえば年度末になれば、利益も大筋はみえてきます。

「このまま税金を払うのもなんだから、利益のいちぶは役員への賞与にしてしまおう」

これを防止するために、ここまで書いてきたようなルールになってるのです。

 

ちなみに、毎月の役員報酬についても、似たようなルールがあります。

毎月の役員報酬がおなじ金額でなければ、法人税等を計算するときには経費とは認めない…と。

 

だから、こうした利益調整ができないように、役員賞与のルールが決められています。

それは、つぎのとおり。

  • 「事前」に、だれに・いつ・いくら支給するのかを、株主総会などの決議で「確定」させる
  • その後、確定した内容を期限までに税務署へ「届出」し、そのとおりに支給する

こうした役員賞与のことを、「事前確定届出給与」といいます。

 

なお、届出の期限は、年度がはじまってから3か月目くらいまでです。

株主総会の時期にもよるのですが。

 

だから、金額によっては黒字・赤字をおおきく左右することもあります。

年度がはじまったばかりのときに、さきの見通しまで立てるのは難しいですから。

とても一発でスパッと決められるものでもない。

だから、予定日がきても、なお迷うこともあります。

そんなとき、どうしましょうか…?

 

3つの選択肢

すくなくとも届出をしていれば、つぎの3つの選択肢があります。

(もし届出をしていないなら、最後の3つ目のみ)

  • 届出どおりに支給する
  • いっさい支給をしない
  • 好きな時に、好きな金額を支給する

 

届出どおりに支給する

税務署へ届け出たとおりに支給するのが、理想です。

もちろん、「○○円にしておけば良かった…」などあるかもしれないですけれどね。

 

でも、節税するのは、けっこう大変なこともあります。

その苦労を一瞬で無にするようなことをしない…ということも大事かも。

取り返すの、大変ですから。

 

なお、役員賞与には社会保険(健康保険・厚生年金)もかかります。

なので、その社会保険の支払いが大きくなりそうなときは、資金繰りにも注意しておきましょう。

もちろん、賞与から天引きする源泉所得税にも。

 

いっさい支給をしない

たとえば届出が「100万円」だったときに、「80万円」を支給するとどうなるか。

このときは、「80万円すべて」が経費とは認められません。

たしょうは利益調整できてしまいますから。

…というのが、役員賞与の厳しいところでもあるのです。

 

届出は「100万円まで」ではないのです。

ちなみに、日付もおなじ。

どちらも届出とピッタリ合っていなければ、すべて経費とはならない。

(だれに支給するかを間違えることはないはず)

 

ただ、もし支給するのが「ゼロ円」なら、経費とならないのも「ゼロ円」。

実害はないわけです。

 

会社を黒字にしたいけれど、届け出どおりに支給すると、赤字になってしまう。

こんなときに考えられる選択肢です。

 

ここで気をつけたいのは、もし大きな会社や他人同士だったらどうなるか…ということ。

役員というのは、会社との契約で、年棒や賞与までふくめて決められるものです。

だから、賞与の日がくれば、受けとる権利が発生してしまう。

もし役員賞与が支給されないなら、裁判だって起こりうる。

この仕組みは、すべての会社でおなじです。

 

ただそうなると、いちばん良い筋書きで、つぎのような過程をたどることになります。

  • 予定日には、未払いでも、いったん役員賞与が経費に組みこまれる
  • 後日、その役員と「払わなくてもよい」と交渉が整った時に、債務免除益などが収入に組みこまれる

法律とか公的な手続きには、こんな面倒な面もあるのです。

 

上のようなことを避けるには、つぎの段取りを踏んでおきましょう。

  • 予定日より前に、役員から「賞与はいらない」という辞退届などを受けとっておく
  • おなじく予定日より前に、株主総会などでその旨を承認し、議事録もつくっておく

こうすれば、面倒も実害もないことになります。

 

好きな時に、好きな金額を支給する

ここまで書いてきた役員賞与のルールをすべて無視する。

そして、好きなときに好きな金額を役員賞与として支給する。

これも、選択肢です。

代わりに、法人税等が割高になりますけれどね。。。

 

でも、それさえ飲み込めるなら、やっても良いことなのです。

ここまで「経費にならない」という言葉を書いてきました。

それらはすべて、「だからといってお金を返さなければいけない訳ではない」のです。

個人の財布には、ちゃんとお金がふえる。

 

この個人のお金の問題は、会社との貸し借りで片付くこともあります。

でも、じぶん一人や家族ではなく、経営に他人が関わってくると、その貸し借りもむずかしい。

あるいは御法度になることも。

そんな状況で、個人のお金が必須ということも出てくるでしょう。

たとえば、そんなときに考えられる選択肢です。

 

ただ、わたしは税理士ですから、節税の大変さはよく分かっています。

この方法は、その大変さを無にするような面もある。

でも、会社の利益や個人の財布など、おかれた状況をかんがえれば、あり得る選択肢。

とても判断がむずかしいことですので、やるにしても、じっくり考えてからにしましょう。

 

まとめ

役員賞与には、税務上の厳しいルールがもうけられています。

だから、金額を決めること一つとってみても、迷うことが多いもの。

いざ役員賞与の予定日がきても、まだ迷っている…ようなこともあります。

そんなときの選択肢について、確認してきました。

 

この役員賞与にとってカギになるのは、おそらく「先の見通し」です。

これは、役員賞与にかぎらず、経営全般において大事なことではないでしょうか。

役員賞与を決めるというのは、その目をみがくような面もあります。

もちろん、最初からうまく見通せるひとはいないでしょう。

将来は誰にも分らないというのも事実ですしね。

でも、だからと言って諦めるのも、違うかな…とおもっています。

 

役員賞与を、先の見通しをかんがえるきっかけにする。

あるいは自分で、自分が頑張るための目標をきめる。

こんな風に役員賞与を活用するのも、良いかもしれませんね。

 

 

※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。