個人が赤字のときに活用したい「本年中における特殊事情」欄
個人の赤字や、例年とくらべたときの売上や経費の大きな増減は「申告に間違いがあるかもしれない」という税務署の疑問を呼ぶ可能性があります。
その疑問を解消するのに活用できるのが、青色決算書にある「本年中における特殊事情」欄です。
その書きかたについてもみていきましょう。
目次
個人が赤字のときのメリット・デメリット
個人が赤字のときは、所得税がゼロになるというメリットがあります。
くわえて、もし青色申告をしているなら確定申告をすることにより、その赤字が将来の黒字と相殺され、将来の所得税がすくなくなります。
いっぽうで、赤字はクレジットカードや住宅ローンの審査に影響をおよぼします。
また、赤字も程度によっては税務調査をひきよせる可能性がでてきます。
というのも、赤字の申告書をみたときには次の疑問がでてくるからです。
「生活費はどうしているんだろう……?」
もし、その赤字が突然のものなら、次の疑問もでてきます。
「売上が計上モレの可能性はないか……?」
こうした疑問は、ある年だけをみるのではなく、数年分をくらべてみて判断します。
すると、次のように疑問はひろがっていきます。
- 売上が急に増えている・減っているのはなぜか
- 粗利がとつぜん変わっているのはなぜか
- 売上の増減と、利益の増減が比例していないのはなぜか
つまり、例年と比べてちがう要素があると「なにかおかしくないか?」と思われてしまうのです。
これが、税務調査をひきよせる原因です。
けれど、事業をしていて毎年おなじ利益になるのも、ぎゃくに少ないものです。
変化がないほうが不自然といえます。
自分や商品が変われば、相手も変わるので。
そんなときに、痛くもない腹を探られるのはイヤなものです。
このようなときに活用できるのが、青色決算書にある「本年中における特殊事情」欄です。
事業用のものでは、次のところにあります。
不動産用であれば、次のところです。
この「本年中における特殊事情」の書きかたについてみていきましょう。
本年中における特殊事情の書きかた
「本年中における特殊事情」には、できるだけ詳しく書きましょう。
具体的な数字や取引先をふくめることができれば、更によいです。
税務署が知りたいのは、「なぜ赤字になったのか」「利益が変動したのか」そして「申告をちゃんとしているか」といったことですから。
たとえば、次のような書きかたがあります。
(例はシンプルにしているので、付け加えられる要素があれば加えましょう)
売上がおおきく減ったのなら
「大口の取引先○○が、○○になったため売上が減少した」
「病気で〇月~〇月は入院していたため、その間は売上がなかった」
「従業員が〇人退職したため、そのぶんの売上が取れなかった」
売上の計上モレは、見つかったときに一番ダメージがおおきいものです。
ゆえに、税務調査でも売上については必ず調べられます。
「自分なりに思うこと」でよいので、数字や取引先をまじえ、なるべく具体的に書きましょう。
利益がおおきく減ったのなら
「仕入値がおおきく上昇したため、原価率は○○%から○○%に増えた」
「○○のため、○○費が想定していたよりも多くかかった」
「古くなった商品を原価割れで値引き販売したため、利益は減少した」
利益が減る原因は、売上が減ることのほかに、経費が増えることがあります。
「なぜ経費が増えたのか」を、過去の申告書とくらべながら考えてみましょう。
「%」をつかわずに「単価○○円」でも大丈夫です。
そして、理由も「自分はこう思う」でよいので。
ある科目がとつぜん増えた・減ったのなら
「○○のために、○○社に臨時の○○費○○円を支払った」
「本年より○○への支払い(○○円)を、○○費から○○費へ変更した」
「古くなった○○を○○に変更したため、○○円の臨時出費があった」
申告書を数年分ならべたときに、ある科目がとつぜん増減するのは目を引きます。
やはり疑問をよぶので、その理由を書いておきましょう。
「本年中における特殊事情」を書く効果
結局のところ、税務署が知りたいのは「申告をちゃんとしているか」です。
赤字になったときや、数年を比べてみたときの売上や経費の大きな増減は「なにかがモレていないか・余計なものが混じっていないか」という疑問をよんでしまいます。
もし「本年中における特殊事情」にそれぞれの理由を書いておくなら、その疑問を解消することができます。
「自分はわかったうえで申告書をつくっている」ことをアピールすることになるので、税務署からのいらぬツッコミを避けることにつながります。
この欄は「特殊」事情なので、小さなことは触れなくてもよいです。
ですが、大きな変化があるときには、なるべく書くようにしましょう。
まとめ
個人の赤字や、例年とくらべたときの売上や経費の大きな増減は「申告に間違いがあるかもしれない」という税務署の疑問を呼ぶ可能性があります。
そこから税務調査…ということになってしまわぬように、「本年中における特殊事情」欄を活用しましょう。
※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。
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