固定資産を売却したときの消費税の仕訳(個人編)
個人が事業用の固定資産を売却したときの仕訳について、とくに消費税の観点からお話をします。
売却代金がおおきくなると、納税義務や簡易課税の判定にも影響します。
ややこしい処理もあるので、会計ソフトに入力するときをイメージしながらみていきましょう。
目次
固定資産の売却は「譲渡所得」になる
事業でつかっている固定資産の減価償却費は、事業所得や不動産所得などの経費になります。
そこで、売却したときもおなじ所得の収入になる……と思いがちです。
ですが、次のものを除き、固定資産の売却は「譲渡所得」になります。
- 商品
- 1つあたり10万円未満のもの
- 1つあたり20万円未満のもので「一括償却」をしているもの
※ 下の2つのものであっても、事業に欠かせない重要なものはのぞきます。
所得税は、すべての収入・経費をまとめて計算するのではなく、「所得の種類ごと」にわけて別々に利益(=所得)を計算します。
その後に合算しますが、経費のありようが違うため、「○○所得」をそれぞれ計算している段階では別々におこなうのです。
もし、たとえば「事業所得」を入力しているなら、固定資産の売却収入は事業所得には混ぜません。
そのため、「固定資産売却損益」ではなく、「事業主借または事業主貸」をつかって仕訳をしていくのです。
ここまでは「所得税」のお話です。
じつは、「消費税」はまた違ったあつかいになります。
消費税はまとめて計算する
事業でつかっている固定資産の売却収入には、消費税がかかります。
いっぽう、生活でつかっているモノを売ったときは、消費税はかかりません。
消費税は「事業として」おこなった取引にかかるのですが、「事業」とは必ずしもビジネスという意味合いのものではありません。
消費税においては、次のものを「事業」と呼ぶのです。
- 同種の行為を反復、継続かつ独立しておこなうこと
そのため、たとえば事業所得と不動産所得、そして譲渡所得と3つの所得があるときは、次のようなことになります。
- 所得税……3つの所得をべつべつに所得を計算する(その後に合算します)
- 消費税……3つを同時にまとめて計算する
厳密にいうと、消費税も所得ごとに集計をし、その後にまとめてもよいです。
でも、いずれやるのだったら、まとめられるものは、まとめておいたほうがラク。
なので、譲渡所得ぶんの消費税もおりこむ前提で、どんな仕訳になるのかみていきましょう。
なお、簡易課税をつかっているとき、固定資産の売却にかかる業種は、本業にかかわらず「第4種事業」となります。
売却益がでたとき
次のサンプルの数字をつかい、固定資産の売却益がでたときの仕訳をみていきましょう。
- 帳簿価額……220,000円
- 売却金額……330,000円
- 売却までの減価償却費……20,000円
仕訳にはつぎの2種類がありますが、まずはスタンダードな仕訳から。
- スタンダードな仕訳
- もう一つの方法
スタンダードな仕訳
スタンダードな仕訳は、消費税の経理方法におうじて次のとおりです。
なお、カッコ内は消費税額または税区分です。
<税込み経理>
税込み経理のとき、「固定資産売却益」にあたるものは「事業主借」で仕訳をします。
その金額は、次のとおり「130,000円」です。
- 330,000円ー(220,000円ー20,000円)=130,000円
借方 | 貸方 | ||
現預金 (対象外) |
330,000円 |
|
|
減価償却費 (対象外) |
20,000円 |
固定資産 (対象外) |
20,000円 |
|
固定資産 (課税売上 10%) |
200,000円 |
|
|
事業主借 (課税売上 10%) |
130,000円 |
消費税は収入全体にかかるため、売却代金「330,000円」ぶんが課税売上になります。
そのため、「固定資産」と「事業主借」あわせて330,000円ぶんが「課税売上 10%」となるのです。
固定資産を2つに分けますが、「減価償却費とおなじ金額が対象外になる」と覚えておきましょう。
なお、減価償却のあつかいは後で説明します。
ひきつづき、同じ数字をつかって「税抜き経理」の仕訳をみていきましょう。
<税抜き経理>
税抜き経理のとき、「固定資産売却益」にあたる「事業主借」は、次のとおり「100,000円」となります。
- 売却代金「330,000円」は税込みなので、税抜きにすると「300,000円」
- 300,000円ー(220,000円ー20,000円)=100,000円
固定資産「220,000円」は税込み経理とおなじ数字をつかっていますが、今回の220,000円は「税抜き」の数字です。
ちょっとしたトリックのようになっていますので、気をつけてくださいね。
借方 | 貸方 | ||
現預金 (対象外) |
330,000円 | ||
減価償却費 (対象外) |
20,000円 |
固定資産 (対象外) |
20,000円 |
固定資産 (課税売上 10%) |
200,000円 (0円) |
||
仮受消費税等 (課税売上 10%) |
30,000円 (30,000円) |
||
事業主借 (課税売上 10%) |
100,000円 (0円) |
ポイントは、次の2点です。
- 課税売上が「330,000円(税込み)」にならなければいけない。
- そのうち消費税は「30,000円」
この2点を反映させるために、「別記」という入力方法が会計ソフトに備わっています。
この機能をつかって「税区分」も「消費税額」も変える必要があります。
また、普段はつかわない「仮受消費税等」がでてくることも特殊です。
ここの処理がややこしいところなので、「もう一つの方法」もみていきましょう。
もう一つの方法
この方法をつかうには、あらかじめ売却が「益」になるか「損」になるかの計算が必要です。
その上で、次の手順をふみます。
- 売却代金をすべて「事業主借」にする
- 減価償却費を入力する
- 「帳簿価額の残り」をマイナスする
仕訳は、税込み経理・税抜き経理ともに次のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
現預金 (対象外) |
330,000円 |
事業主借 (課税売上 10%) |
330,000円 (30,000円) |
減価償却費 (対象外) |
20,000円 |
固定資産 (対象外) |
20,000円 |
事業主借 (対象外) |
200,000円 |
固定資産 (対象外) |
200,000円 |
この方法は、簿記の勉強をしてきたかたにとって、教科書通りの仕訳とちがうことに抵抗があるかもしれません。
でも、この方法なら税抜き経理のややこしさを回避できますし、シンプルです。
実際は、上記のようにゼロならびの数字がでてくることは少ないので、この方法も検討してみましょう。
売却損になったとき
次のサンプルの数字をつかい、固定資産の売却損になったときの仕訳をみていきましょう。
- 帳簿価額……220,000円
- 売却金額……110,000円
- 売却までの減価償却費……20,000円
仕訳には2種類ありますが、まずはスタンダードな方法から。
スタンダードな仕訳
スタンダードな仕訳は、消費税の経理方法におうじて次のとおりです。
なお、カッコ内は消費税額・消費税区分です。
<税込み経理>
税込み経理のとき、「固定資産売却損」は「事業主貸」で仕訳をします。
その金額は、次のとおり「90,000円」となります。
- 110,000円ー(220,000円ー20,000円)=△90,000円
借方 | 貸方 | ||
現預金 (対象外) |
110,000円 |
|
|
減価償却費 (対象外) |
20,000円 |
固定資産 (対象外) |
20,000円 |
固定資産 (課税売上 10%) |
110,000円 (10,000円) |
||
事業主貸 (対象外) |
90,000円 |
固定資産 (対象外) |
90,000円 |
ポイントは、固定資産のうち、売却代金にあたる「110,000円」が課税売上になることです。
これを反映させるために、固定資産の帳簿価額「220,000円」を上記のようにわけることになります。
なお、減価償却費と事業主貸との関係をみやすいように、固定資産を3つにわけましたが、税区分がおなじものはまとめても問題ありません。
ひきつづき「税抜き経理」の仕訳をみていきましょう。
<税抜き経理>
税抜き経理のとき、「固定資産売却損」にあたる「事業主貸」は、次のとおり「100,000円」となります。
- 売却代金「110,000円」は税込みなので、税抜きにすると「100,000円」
- 100,000円ー(220,000円-20,000円)=△100,000円
固定資産「220,000円」が「税抜き」の数字であることに気をつけてくださいね。
借方 | 貸方 | ||
現預金 (対象外) |
110,000円 | ||
減価償却費 (対象外) |
20,000円 |
固定資産 (対象外) |
20,000円 |
固定資産 (課税売上 10%) |
100,000円 (0円) |
||
仮受消費税等 (課税売上 10%) |
10,000円 (10,000円) |
||
事業主貸 (対象外) |
100,000円 |
固定資産 (対象外) |
100,000円 |
ポイントは、次の2点です。
- 課税売上が「110,000円(税込み)」にならなければいけない。
- そのうち消費税は「10,000円」
この2点を反映させるために、会計ソフトの「別記」という入力方法をつかったり、帳簿価額をわけて入力することが必要です。
では「もう一つの方法」もみていきましょう。
もう一つの方法
この方法をつかうには、あらかじめ売却が「益」になるか「損」になるかの計算が必要です。
その上で、次の手順をふみます。
- 売却代金をすべて「事業主貸」にする
- 減価償却費を入力する
- 「帳簿価額の残り」をマイナスする
仕訳は、税込み経理・税抜き経理ともに次のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
現預金 (対象外) |
110,000円 |
事業主貸 (課税売上 10%) |
110,000円 (10,000円) |
減価償却費 (対象外) |
20,000円 |
固定資産 (対象外) |
20,000円 |
事業主貸 (対象外) |
200,000円 |
固定資産 (対象外) |
200,000円 |
では、さいごに減価償却についてもみておきましょう。
減価償却について
固定資産を売却するまでの減価償却は、してもよいし、しなくてもよいです。
どちらにしても、「すべての収入からひけるのは、その固定資産の期首の帳簿価額」です。
その帳簿価額をわけるか・わけないか、の違いだとイメージしましょう。
もし減価償却をするなら……
- 事業所得などがへり、譲渡所得はふえる
もし減価償却をしないなら……
- 事業所得などはふえ、譲渡所得はへる
減価償却によりそれぞれに増減がでてくるが、所得の合計はかわらない……という結果になるのです。
所得の合計がかわらないなら、所得税もかわらない……というのは違います。
それは、譲渡所得の計算方法にカギがあります。
なお、譲渡所得のうち、ほかの所得と合算するものを「総合課税」といいます。
この総合課税には車や機械・備品などがふくまれますが、不動産や株式などはふくまれません。
その総合課税の譲渡所得は次のように計算します。
- 収入ー(原価+譲渡費用)ー50万円=譲渡所得
この「50万円」は、譲渡益が限度です。
また、売却した固定資産の所有期間が5年超なら、所得は1/2になります。
次のことを考えてみましょう。
- 譲渡所得の「ー50万円」を使いきれるか
- 5年超もっているときは「譲渡所得が1/2」になる
このことを考えたとき、これら2つの恩恵をよりおおく受けるためには、譲渡所得が大きいほうがよい。
つまり、減価償却をするほうがよいことになります。このことだけを考えたときは。
ほかの収入や特例・状況などによっては、減価償却をする・しないの有利不利が変わる可能性もあります。
こまかくて難しい話ですが、こうしたことも踏まえて、減価償却のあつかいを検討する必要があるのです。
まとめ
個人が固定資産を売却したときの仕訳について、消費税のことを中心にみてきました。
売却代金がおおきければ納税義務や簡易課税の判定もかわるので、仕訳には気をつけましょう。
※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。
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