固定資産を売却したときの消費税の仕訳(法人編)

法人が固定資産を売却したときの仕訳について、とくに消費税の観点からお話をします。

売却代金がおおきくなると、納税義務や簡易課税の判定にも影響します。

ややこしい処理もあるので、会計ソフトに入力するときをイメージしながらみていきましょう。

 

売却益がでたとき

次のサンプルの数字をつかい、固定資産の売却益がでたときの仕訳をみていきましょう。

  • 帳簿価額……220,000円
  • 売却金額……330,000円

 

仕訳には2種類ありますが、まずはスタンダードな仕訳から。

 

スタンダードな仕訳

スタンダードな仕訳は、消費税の経理方法におうじて次のとおりです。

なお、カッコ内は消費税額または税区分です。

 

<税込み経理>

税込み経理のとき、決算書などにでてくる「固定資産売却益」は次のとおり「110,000円」となります。

  • 330,000円ー220,000円=110,000円

 

借方 貸方

現預金

(対象外)

330,000円

固定資産

(課税売上 10%)

220,000円

(20,000円)

   

固定資産売却益

(課税売上 10%)

110,000円

(10,000円)

 

ポイントは、売却代金「330,000円」すべてが課税売上になることです。

消費税は売却益だけにかかるのではなく、収入全体にかかります。

そのため、「固定資産」と「固定資産売却益」がともに「課税売上 10%」となるのです。

カッコ内の消費税額も、あわせて「30,000円」になります。

 

もし、どちらかが「課税売上」になっていなければ、消費税の計算が変わってしまいます。

なので、この点について注意しましょう。

 

なお、減価償却のあつかいは後で説明します。

ひきつづき、同じ数字をつかって「税抜き経理」の仕訳をみていきましょう。

 

<税抜き経理>

税抜き経理のとき、「固定資産売却益」は次のとおり「80,000円」となります。

  • 売却代金「330,000円」は税込みなので、税抜きにすると「300,000円」
  • 300,000円ー220,000円=80,000円

 

なお、固定資産「220,000円」は税込み経理とおなじ数字をつかっていますが、今回の220,000円は「税抜き」の数字です。

ちょっとしたトリックのようになっていますので、気をつけてくださいね。

 

借方 貸方

現預金

(対象外)

330,000円

固定資産

(課税売上 10%)

220,000円

(0円)

   

仮受消費税等

(課税売上 10%)

30,000円

(30,000円)

   

固定資産売却益

(課税売上 10%)

80,000円

(0円)

 

ポイントは、次の2点です。

  • 課税売上が「330,000円(税込み)」にならなければいけない。
  • そのうち消費税は「30,000円」

 

この2点を反映させるために、「別記」という入力方法が会計ソフトに備わっています。

この機能をつかって「税区分」も「消費税額」も変える必要があります。

ここの処理がややこしいところなので、「もう一つの方法」もみていきましょう。

 

もう一つの方法

この方法をつかうには、あらかじめ売却が「益」になるか「損」になるかの計算が必要です。

その上で、次の手順をふみます。

  • 売却代金をすべて「固定資産売却益」にする
  • その「固定資産売却益」から「帳簿価額」をマイナスする

 

仕訳は、税込み経理・税抜き経理ともに次のとおりです。

 

借方 貸方

現預金

(対象外)

330,000円

固定資産売却益

(課税売上 10%)

330,000円

(30,000円)

固定資産売却益

(対象外)

220,000円

固定資産

(対象外)

220,000円

 

2行目がいずれも「対象外」になることに注意しましょう。

もしかしたら、簿記の勉強をしてきたかたにとっては教科書通りの仕訳とはちがうことに抵抗があるかもしれません。

でも、この方法なら税抜き経理のややこしさを回避できますし、シンプルです。

実務では上記のようにゼロならびの数字がでてくることは少ないので、この方法も検討してみましょう。

 

売却損になったとき

次のサンプルの数字をつかい、固定資産の売却損がでたときの仕訳をみていきましょう。

  • 帳簿価額……220,000円
  • 売却金額……110,000円

 

仕訳には2種類ありますが、まずはスタンダードな方法から。

 

スタンダードな仕訳

スタンダードな仕訳は、消費税の経理方法におうじて次のとおりです。

なお、カッコ内は消費税額・消費税区分です。

 

<税込み経理>

税込み経理のとき、決算書などにでてくる「固定資産売却損」は次のとおり「110,000円」となります。

  • 110,000円ー220,000円=△110,000円

 

借方 貸方

現預金

(対象外)

110,000円

固定資産

(課税売上 10%)

110,000円

(10,000円)

   

固定資産

(対象外)

110,000円

固定資産売却損

(対象外)

110,000円    

 

ポイントは、売却代金「110,000円」が課税売上になることです。

これを反映させるために、固定資産の帳簿価額「220,000円」を課税売上と対象外にわけることになります。

 

ひきつづき「税抜き経理」の仕訳をみていきましょう。

 

<税抜き経理>

税抜き経理のとき、「固定資産売却損」は次のとおり「120,000円」となります。

  • 売却代金「110,000円」は税込みなので、税抜きにすると「100,000円」
  • 100,000円ー220,000円=△120,000円

 

固定資産「220,000円」が「税抜き」の数字であることに気をつけてくださいね。

 

借方 貸方

現預金

(対象外)

110,000円

固定資産

(課税売上 10%)

100,000円

(0円)

   

固定資産

(対象外)

120,000円
   

仮受消費税等

(課税売上 10%)

10,000円

(10,000円)

固定資産売却損

(対象外)

120,000円    

 

ポイントは、次の2点です。

  • 課税売上が「110,000円(税込み)」にならなければいけない。
  • そのうち消費税は「10,000円」

 

この2点を反映させるために、会計ソフトの「別記」という入力方法をつかったり、帳簿価額をわけて入力することが必要です。

では「もう一つの方法」もみていきましょう。

 

もう一つの方法

この方法をつかうには、あらかじめ売却が「益」になるか「損」になるかの計算が必要です。

その上で、次の手順をふみます。

  • 売却代金をすべて「固定資産売却損」にする(この時点で売却損がマイナスの値になる)
  • その「固定資産売却損」に「帳簿価額」をプラスする(プラスの値にもどる)

文字にするとややこしいので仕訳をみてみましょう。

 

仕訳は、税込み経理・税抜き経理ともに次のとおりです。

 

借方 貸方

現預金

(対象外)

110,000円

固定資産売却損

(課税売上 10%)

110,000円

(10,000円)

固定資産売却損

(対象外)

220,000円

固定資産

(対象外)

220,000円

 

2行目がいずれも「対象外」になることに注意しましょう。

 

では、さいごに減価償却などの留意点もおさえておきましょう。

 

留意点

留意点は、次の2点です。

  • 減価償却
  • 簡易課税の区分

 

減価償却

期中に固定資産を売却したとき、減価償却はどうするか……?

 

法人の場合、原則として、期末にもっている固定資産だけに減価償却をおこないます。

期中に売却したときは、減価償却をしなくてもよいのです。

むしろ、計算も仕訳もラクになります。

 

ただ、かりに減価償却をしたとしても、利益は変わらないので否認はされないと思います。

この場合は、減価償却費(販管費)が営業利益をへらすことになります。

いっぽう、固定資産売却損益(特別損益)がかわるので、特別利益がふえることになります。

つまり、最終的な利益はかわらないのですが、損益計算書の内訳がかわるのです。

実態はかわらないとしても、融資をうけるときのように営業利益や経常利益が重視されるときは気にしましょう。

 

簡易課税の区分

固定資産の売却収入は、本業にかかわらず「第4種事業」になります。

うっかり本業と同じにしないように気をつけましょう。

 

まとめ

法人が固定資産を売却したときの仕訳について、消費税のことを中心にみてきました。

税理士にとってもややこしい処理ですが、これを間違うと消費税に影響がでてきます。

売却代金がおおきければ納税義務や簡易課税の判定もかわるので、仕訳には気をつけましょう。

 

※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。