店舗や事務所を借りたときの初期費用の経理・仕訳
店舗や事務所を借りたときは、いろんな名目でまとまったお金がでていきます。
敷金、礼金、仲介手数料、家賃、火災保険料について、経理・仕訳をみていきましょう。
店舗や事務所を借りたときの初期費用の経理・仕訳
店舗や事務所を借りたときは、一般的につぎのものを支払います。
- 敷金(保証金)
- 礼金
- 仲介手数料
- 家賃
- 火災保険料
それぞれの経理・仕訳をみていきましょう。
敷金(保証金)
敷金のことを、保証金と呼ぶこともあります。
どちらも、次のことにつかうため、大家さんに支払うものです。
- 賃料が払えなかったときに、補填する
- 退居するときに、汚れやキズを原状回復する
これらのことは、いずれも将来に起こること・起こるかもしれないことです。
なので、支払ったときには、たんにお金を大家さんに預けただけ、と経理します。
つまり、経費にはならないのです。
その敷金は「資産」として、「敷金」あるいは「差入保証金」として経理します。
なお、敷金には消費税がかかりません。
消費税は、お金を払うかわりに、モノやサービスの提供を受けたときにかかるものだからです。
ここまでを踏まえ、次のように仕訳をします。
借方 | 貸方 | ||
敷金または差入保証金 | ××× 円 | 現預金 | ××× 円 |
ちなみに、退居するときには、なんだかんだ原状回復のための費用をさしひかれます。
入居するときに支払った金額から、原状回復費がさしひかれ、その残りが振り込まれるわけです。
この原状回復費は、「修繕費」をつかうのが一般的です。
原状回復というサービスを受けるわけなので、消費税がかかります。
このときの仕訳は、次のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
現預金 | ××× 円 | 敷金または差入保証金 | ××× 円 |
修繕費 | ××× 円 |
礼金
礼金は、その名のとおり「お礼」です。「貸してくれてありがとう」という。
戦後に、建物がじゅうぶんに無かったときのことを想像してみましょう。
借りることが難しい時期もあったのです。
なお、礼金はお礼なので、戻ってこないものです。
かわりに、契約期間のあいだ、その物件を借りる権利を手にすることができる、といえます。
そのため、消費税がかかります。権利もモノなので。
(居住用の場合、消費税は非課税です)
気をつけたいのは、礼金が、最初の「契約期間」にわたって効果があることです。
払うのは契約時ですが、契約に違反しないかぎり、契約が終わるまで借りることができるので。
そのため、基本的には「契約期間」で分割して経費にしていきます。
ただし、契約期間が5年以上のときは、5年で。
これは、減価償却とおなじ仕組みです。
礼金については、次の2段階で仕訳をします。
- 契約時
借方 | 貸方 | ||
長期前払費用(注) | ××× 円 | 現預金 | ××× 円 |
(注)消費税は「課税仕入れ」とします。
- 決算時または月次決算時
借方 | 貸方 | ||
地代家賃(注) | ××× 円 | 長期前払費用 | ××× 円 |
(注)「支払手数料」としても結構です。また、消費税は「対象外」です。
なお、礼金が「20万円未満」のときは、上記のような複雑な経理は不要です。
上記のルールにかかわらず、支払ったときにすべて経費にすることができるのです。
仕訳は、次のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
地代家賃(注) | ××× 円 | 現預金 | ××× 円 |
(注)消費税は「課税仕入れ」です。
なお、最初の契約期間がおわったときに支払う「更新料」も、礼金とおなじ扱いになります。
仲介手数料
仲介手数料は、物件の案内や、契約などの手続きをすすめてくれたことに対するものです。
そのため、支払ったときに経費になります。
また、諸々のサービスを受けているわけなので、消費税がかかります。
仕訳は、次のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
支払手数料 | ××× 円 | 現預金 | ××× 円 |
家賃
家賃は、支払ったときに経費にすることができます。
また、店舗や事務所用のものは、消費税がかかります。
その仕訳は、次のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
地代家賃 | ××× 円 | 現預金 | ××× 円 |
いっけんシンプルに思えますが、じつは裏にこまかい理屈があります。
というのも、家賃は原則として、利用したときに経費になるからです。
おおくの場合、家賃は「前払い」です。
そのため、支払ったときには「前払費用」。
その月になったら、前払費用から「地代家賃」に振り替える。
原則的には、このように2段階で仕訳をするのです。
でも、店舗や事務所の契約は、一般的に2~3年はつづくものです。
結果がわかりきっているのに、わざわざ2段階で仕訳をするのも面倒…とは誰もがおもうもの。
そのため、支払ったときに経費にすることもできる特例があります。
これを「短期前払費用の特例」といいます。
つぎの3つの条件を満たすなら、支払ったときに経費にできるのです。
- 支払い日から1年以内の家賃であること
- いつも支払ったときに経費にすること
- 契約のとおりに支払っていること
なお、節税の手法として、この短期前払費用を利用するものがあります。
年度末に、むこう1年分の家賃を前払いすることにより、経費をまとめて計上する方法です。
(トータルでみれば家賃はかわらないので、メリットを実感できるのは最初の1回かぎりです)
このときに「契約のとおりに支払っていること」がネックになることがあります。
契約が「月ごと」なら、「1年分をまとめ払い」は条件をみたさないのです。
豆知識として覚えておきましょう。
火災保険料
火災保険料は、原則として、今期に対応するものだけが今期の経費になります。
(保険料は、消費税が非課税です)
そのため、つぎの3段階で仕訳をしていきます。
- 支払ったとき
借方 | 貸方 | ||
保険料 | ××× 円 | 現預金 | ××× 円 |
- つぎの決算時または月次決算時
借方 | 貸方 | ||
前払費用(注) | ××× 円 | 保険料 | ××× 円 |
(注)前払費用は、決算時から1年以内のものです。それを超えるものは「長期前払費用」とすることもできます。
- その後の決算時または月次決算時
借方 | 貸方 | ||
保険料 | ××× 円 | 前払費用(注) | ××× 円 |
(注)長期前払費用があるときは、前払費用が1年分になるための仕訳もします。
火災保険料は、契約期間のぶんを支払うのが一般的です。
もし、1年分を毎年はらうようなら、短期前払費用の特例によりすべて経費にすることもできます。
お金について気をつけること
事業用の物件のばあい、敷金や保証金がおおきな金額になることも多いです。
居住用であれば1か月分程度ですむところ、事業用は3か月分~12か月分かかることもあるので。
でも、ここまでみてきたように、支払ったときに経費にならないものもあります。
とくに敷金です。
その分のお金は、ほかに流用することができません。
その分のお金がないものとして、今後のやりくりを考えなければならないのです。
比較的おおきな金額になるのに。
店舗や事務所を借りるときは、つぎのことを押さえておきましょう。
- 今回でていくお金が、すべて経費になるわけではないこと
そのうえで、今後お金が足りなくならないように、やりくり(=資金繰り)を計画しておきましょう。
まとめ
店舗や事務所を借りたときの初期費用についての経理・仕訳をみてきました。
これらの初期費用は、一括ではらうことも多いです。
でも、口座履歴をみると1つの数字にまとまってしまいます。
経理をするには、支払いの明細が必要になることも覚えておきましょう。
※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。
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