もし税理士である私が税務調査をするなら何を調べるか
わたしは税理士ですが、税務署で働いたことはありません。
いつも申告書をつくり、税務署へ提出する側です。
でも、税務署の事情もあるていどは見聞きしています。
そんなわたしが、もし税務調査をする側なら、何を調べるかを記事にしました。
目次
税務調査の前にやること
税務調査は、ゼロの状態からはじまるわけではありません。
すでに行っている申告があり、そのデータが税務署にもあるので。
そこから分かるのは、次のことです。
- 決算書から……科目ごとの金額がいくらか
- 添付書類から……科目の内容のうち、大きなものについて取引先・金額
税務調査では、これらの内容を掘り下げていくわけです。
これらのデータを年度ごとに並べたとき、まったくおなじ数字になることは少なく、変動はあるものです。
(保険料やリース料など、固定的なものは除きますが…)
まずは、この金額の変動のうち、大きなものがないかをみておきます。
なにかが大きくうごくなら、当然、理由があるはずです。
また、それに連動して動かなければならないものもあるはずです。
たとえば、売上が大きくへったとき。
もしかしたら、病気にかかっていたのかもしれません。
あるいは、従業員が辞めたり、取引先とトラブルになったり…という事情があったかもしれません。
こういうことは、経費にも反映されます。
にもかかわらず、経費に変動がないのなら、売上を抜いている可能性がでてきます。
……というようなことを、数字の変動から、前もって想像しておくわけです。
その確認を、調査のときにする…と。
なので、税務調査がくるとなったら、過去の申告には目をとおしておきましょう。
もし大きな変動がみつかったら、過去を振り返り、どんな状況だったか確認しておきましょう。
もし税理士である私が税務調査をするなら何を調べるか
税務調査は、追加の税金や罰金をとるためにおこなう、のが税務署の本音のはずです。
となれば、とりやすいところ・分かりやすいところから調べるものです。
それは、たとえば次のことです。
- 売上が抜けていないか
- ある売上がちがう年度に入っていないか
- 在庫が少なくないか
- 架空の経費がないか
- 給与を外注費にしていないか
- プライベートのものが入っていないか
- 経費のなかに、資産にすべきものがないか
売上が抜けていないか
売上が抜けているのは、インパクトが大きいです。
税金は利益にかかりますが、売上が抜けていれば、その売上そのものに追加の税金がかかるので。
また、売上が1,000万円前後なら、消費税にも影響してきます。
抜けていた売上を追加すると、免税ではなく、課税事業者になることもあるので。
となれば、消費税の納税がまるまる追加でとれることになります。
おなじく消費税で、売上が5,000万円前後のときは、簡易課税に影響します。
抜けていた売上を追加すると、簡易課税がつかえなかった……となるかもしれません。
となると、消費税の申告をやり直し、そこで追加の税金がでることもあるでしょう。
売上が抜けているのは、たとえば次のケースです。
- ほんらい「売上」とすべきものを「売掛金」としていた
- 現金でもらった売上をわすれていた
この他にも、売上を抜く方法はあるかもしれません。
でも、売上を抜くのはやめておきましょう。
その理由は、最後にお話しします。
ある売上がちがう年度に入っていないか
ある仕事が、売上になるタイミングは決められています。
それはお金を受けとったときではありません。
モノを引き渡したとき・サービスの提供が完了したときなのです。
この兼ね合いで、ある売上がちがう年度に入ってしまうこともあります。
トータルでみれば、つまり複数の年度でみれば、売上の合計はおなじです。
でも、その年度だけでみれば、売上は多かった・少なかったということになってしまいます。
(このことは、先程とおなじく、消費税に影響します)
多かった年度では、更正の請求という手続きにより、税金を還付してもらうことができます。
いっぽう少なかった年度では、追加の税金をはらうことになります。
過少申告加算税、延滞税という罰金とともに。
税務署にとっても手間がかかるものの、追加の税金をとれるわけです。
なので、売上がちがう年度に入っているときは、大きめの影響があるのです。
在庫が少なくないか
商品は、売れなければ経費になりません。
そして在庫は、仕入れた商品のうち、売れていないものです。
たとえば……
- 「10」仕入れたうち、在庫が「1」なら、経費になるのは「9」です
- 「10」仕入れたうち、在庫が「3」なら、経費になるのは「7」です
在庫がすくないと、経費はおおきくなる。
その経費がおおきくなると、利益も税金もすくなくなる。
このような関係にあります。
つまり、在庫がほんらいよりもすくないと、追加の税金をはらうことになるのです。
在庫がすくなくなる原因は、たとえば次のことがあげられます。
- かぞえ間違い
- 営業車のなかにおいてあるものがモレていた
- だれかに預けているものがモレていた
在庫(仕入れ)は、売上についで金額が大きいものです。
なので追加の税金への影響も、大きいです。
その在庫がすくないことは、原価率の変動や数え方・資料・過去からの推移などから判明します。
在庫を数えるのは手間がかかるものですが、普段から気にしておけば問題ないはずです。
架空の経費がないか
架空の経費をつくったり、経費を水増しして税金をへらすこと。
これはニュースや新聞でも、よく目にするものです。
そして、その手法も、だいたい同じです。
税務署は、いま税務調査をしているかたの取引先を調査することもできます。
反面調査と呼んだりするものです。
ある支払いについて、それにより、どんなことをしてもらったのかハッキリしない。
事業への影響・痕跡がないように感じる。
こんなとき、それが架空のものであるなら、ご自身や取引先、双方のお金の流れを追っていくことで判明します。
給与を外注費にしていないか
ほんらい給与のものを、外注費にする。
すると、消費税と源泉所得税がすくなくなります。
(両者の違いはとても量があるので、コチラの記事を参考にどうぞ)
もし、外注費になっているものが、じつは給与だったとなれば、追加の税金をとれます。
契約書やふだんの仕事の状況・書類・メール、場合によっては外注のかたへの聞き取り。
こうしたことから判明します。
プライベートのものが入っていないか
プライベートのものは、経費になりません。
たとえば、旅行代・食事代・モノ・交際費(贈答品)などのうちに、プライベートのものが混じることがあります。
それぞれ、「どんなことをしたのか」「仕事との関係」が説明できなければなりません。
ものによっては、証拠となる資料がないと苦しいこともあります。
贈答品については、金額によっては相手に確認を取るかもしれません。
会計データをみるときは、通常、○○費などの科目ごとにみていきます。
その中で、金額のケタが変わるのものは、目を引きます。
いっぽう、ほかのものと同じような金額のものは、見過ごすこともあるでしょう。
なかにはバレないものも、あるかもしれないのです。
でも、旅行代・食事代・モノは、定番でもあります。
ふだんから、気にして書類などを整えておきましょう。
とくに法人は、プライベートのものが判明したとき、法人・個人ともに追加の税金をはらうことになります。
税務署から見ると、おいしいことでもあるのです。
経営者は、仕事・プライベートの区別がつきにくい状況もおおいです。
なので、そのぶん用心も必要だと思いましょう。
経費のなかに、資産にすべきものがないか
30万円以上の固定資産は、減価償却により経費にしていきます。
もし、これが消耗品費などとして経費になっていれば、直さなければいけません。
ほんらいは購入代金の一部しか経費にならないところ、全額が経費になっているわけです。
なので、追加の税金がかかります。
ケアレスミスのようなものなので、これはしょうがない……
いっぽう、20万円以上かかる「修繕」をしたときは、すこし複雑です。
いたんだところを原状回復した。いつもやっている維持管理だった。
このようなときは、その修繕はすべて経費になります。
しかし、その修繕により資産価値があがったり、より長くつかえるようになったとき。
こんなときは、減価償却により経費にしていきます。
このことは、現地をみたり、修繕の資料などから判明します。
修繕にかかった金額がおおきいときに、この判断を間違うと、けっこうな痛手になります。
できるなら修繕をするときに、相談・調べるなどして判断を決着させておきましょう。
絶対に避けること
罰金のなかに「重加算税」というものがあります。
これは、仮装・隠蔽により、税金を本来よりもすくなく申告したときにかかる罰金です。
仮装とは、仮の事実を装うこと。たとえば嘘をつくことです。
隠蔽とは、なにかを隠すこと。
仮装・隠蔽で代表的なものには、架空経費や売上を抜くことがあげられます。
この重加算税がかかると、追加ではらう税金が1.5倍くらいになると思っておきましょう。
それに加えて、税務署のブラックリストにも載る……と。
税務署からみれば、カモのような存在になってしまいます。
以降、税務調査がくることも増えてしまうでしょう。
税理士としても、お付き合いはしづらいものです。税理士まで疑われるので。
結局のところ、税金はまっとうに申告しておいたほうが、いろいろラクかもしれません。
(もちろん、できる節税は取りこぼさないという前提です)
税金はできるだけ少ないほうがよいものです。
でも、重加算税だけは別です。
絶対に、絶対に避けなければならないものだと覚えておきましょう。
※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。
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