減価償却や簿記は誰のためのものなのか

減価償却は、19世紀に鉄道会社によって、複式簿記の一部として開発された仕組みです。

その複式簿記は、ときには事業の実態をただしく反映しない可能性があるものですが、結局のところお金を稼ぐための道具です。

もし数字が苦手であっても、経営をするならつきあっていく覚悟は決めましょう。

 

減価償却の歴史

減価償却は、建物や車のように長くつかうものを購入したとき、その購入代金をつかう期間で分割して経費にしていく仕組みです。

つまり、購入したときに、代金がすべて経費になるわけではない。

 

たとえば何かを購入したとして……

  • お金は「500」でていったのに、「100」しか経費にならない といったことが起こります。

お金の流れと経費にズレがでてくる問題をかかえた仕組みなのです。

 

この減価償却は、19世紀にイギリスの鉄道会社が開発したといわれています。

 

当時、鉄道(蒸気機関車)は発明されたばかりでしたが、それまでの馬車や船にくらべれば、あきらかに早く便利。

でも、鉄道を普及させるには、鉄道本体だけではなく、線路の工事やその敷地なども必要です。

莫大なお金がかかるので、とても個人の財布ではまかないきれません。

そこで、いろんな人たちからお金を集め、会社として運営する必要があったのです。

 

問題は、お金を出してくれた人たちへの見返りである「配当」です。

 

減価償却は誰のためなのか

配当は儲からなければ、つまり利益がでなければ、出すことができません。

この利益の計算を、もし「お金の出入り」でおこなうなら、開業当初はほぼ確実に赤字になってしまいます。

鉄道本体や線路のために、たくさんお金がまとまってでていくので。

 

となると、「配当」は開業してからすぐには手にすることができません。

 

ただでさえ、上手くいくかどうか分からない。

敷地の買収がうまくいかないことだってあり得るし。

くわえて、配当を手にするにも何年か待たなければならない……

 

こんな条件だと、集まるお金も集まりません。

 

そこで開発されたのが、減価償却です。

鉄道のための初期投資を、つかう期間で分割して経費にすれば、開業1年目から黒字にすることができる…と。

そうなれば、お金を出資した人たちも配当を手にすることができます。

となれば、お金を集めやすい。

 

つまり、減価償却は次の目的のために開発されたともいえるのです。

  • 会社……お金を集めやすくするため
  • 出資する人……配当を受けとりやすくするため

 

問題は「経営に活用するため」ではないかもしれない……ということなのです。

 

何を頼りに経営するか

減価償却には、「つかう期間を何年にするか」という問題があります。

もし「壊れるまで」つかうなら予測できるものではないし、「20年」としたものを「30年」つかうことだってあり得ます。

「わざと」あるいは「不可抗力」にせよ、結果として「実態にみあっている利益」ではなくなる可能性があるのです。

 

また、利益ではなく財産のほうに目を向けてみれば、貸借対照表には購入代金から減価償却した部分をマイナスしたものが「固定資産」として載ります。

この金額はいわゆる「原価」ですが、「時価」はどうでしょうか。

会計データでは「100」のものが、時価にすると「10」あるいは「300」というようなことだってあり得ます。

やはり実態にはみあっていない。

 

このようなことは、じつは他にもあります。

正しいルールにそって決算書をつくっても、実態が反映されていないこともあり得るのです。

なので、融資を申しこめば金融機関はチェックするし、税務調査だってあるのです。

つまり、決算書は信用されていないということなのです。

 

このような会計データを頼りに経営をするなら、なにかがズレてしまう可能性もあるでしょう。

 

かといって、会計データをまったく頼りにしないのも考えもの。

複式簿記が発明されてから500年はたっているわけで、今にいたるまで、おおくの人が知恵をしぼった結果を活用しないなんてもったいないでしょう。

誰のためかはともかく、結局のところ「お金を稼ぐため」の道具が簿記です。

 

なので、経営において、お金を稼いでいくためには、やっぱり簿記や数字とつきあっていく必要があります。

もし、会計データと実態に違いがあるなら、それを念頭においたうえで。

ときには、すこしデータをアレンジする必要もあるでしょう。

 

でも、最低限の知識は、やっぱり必要です。

日商簿記3級くらいの。

 

人によって向き不向きはあるものの、誰でも「お金を稼ぎたい」という気持ちはあるものだと思います。

「稼がなきゃならない」でもいいですし、「たくさん」でなくてもよいです。

この気持ちを出発点にしましょう。

かつて簿記を発明した人たちとおなじように。

 

簿記の知識は、自分でなんとかしてもよいし、誰かを頼ってもいいです。

「よく分からないことがある」とか「なんか違和感を感じる」「スッキリしない」ということを見逃さなければ、ある程度は自然に身についてくるものです。

そして、「もっと稼ぐには」とか「○○したらどうなるか」ということを、頭をひねって考えていくと、数字に強くなっていきます。

 

減価償却をはじめ、簿記という仕組みは「お金を稼ぐため」の道具です。

経営するなら必ずつきあっていくものだと覚悟を決めましょう。

そうすれば、事業を見る目や発想がかわることもあるので。

また、何をすると危険かも判断できるようになりますから。

 

まとめ

減価償却の歴史を確認し、簿記は誰かが「お金を稼ぐための道具」だということについてみてきました。

数字が苦手というかたが少なくないのが現実ですが、500年ものあいだ多くのかたが知恵をしぼってできたのが簿記です。

先人達の知恵も、経営に取り入れましょう。

 

※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。