手書きの帳簿と会計ソフト。個人はどちらがよいか
個人事業主が帳簿をつくるとき、手書きと会計ソフトのどちらがよいかの判断材料になることを解説します。
カギになるのは青色申告特別控除65万円・55万円・10万円のどれをとるか、です。
会計ソフトの料金
ひとくちに会計ソフトといっても、いろんなものがあります。
メーカーだけでも、弥生、マネーフォワード、freee、CASIO、オービック、ソリマチ、ミロク情報サービスなどとさまざまです。
さらにインストール型、クラウド型のどちらにするのかも考えなくてはなりません。
インストール型であれば、料金はソフト代と保守料、どちらも1万円~数万円位をみておけばよいでしょう。
ただし、保守料は毎年払うもの、と考えておいた方がよいです。
というのも、所得税や消費税の改正がある都度、それに対応しなければいけないからです。
クラウド型であればソフト代はかかりませんが、利用料と保守料をミックスしたものを毎年払うことになります。
この料金も数万円くらいをみておけばよいでしょう。
つまり、会計ソフトをつかうなら、毎年数万円の出費があると思っておいた方がよいのです。
手書きで帳簿をつくるなら、ペンとノートで数百円ですむでしょう。
もちろんお金だけではなく、帳簿をつくるのにかかる時間も大事です。
しかし、数万円も払う価値があるのか、引き続きみていきましょう。
手書きの帳簿と会計ソフト。どちらがよいか
手書きの帳簿と会計ソフトを、次の点で比べてみましょう。
その後、自分にとってはどちらがよいかを考えましょう。
- 青色申告特別控除
- 簿記の知識が必要か
- 経営の役に立つか
- いずれ税務署は収受日付印を押さなくなる
青色申告特別控除
青色申告特別控除には、65万円・55万円・10万円の3種類があります。
それぞれの違いは、次のとおりです。
65万円 | 55万円 | 10万円 | |
帳簿 | 複式簿記 | 複式簿記 | 簡易な簿記 |
貸借対照表 | 必要 | 必要 | いらない |
期限内の申告 | 必要 | 必要 | 必須ではない |
電子申告 | 必要(注) | 紙でもOK | 紙でもOK |
(注)電子申告に代えて、電子帳簿保存をすることでも可。
手書きで帳簿をつくるとき、ネックになるのは貸借対照表です。
領収書などが少なければできないことはないですが、手書きですべての科目の残高を合わせるのは大変です。
会計ソフトをつかえば、貸借対照表はボタンひとつでできるので、ホント楽になります。
会計ソフトをつかう最大の目的は、貸借対照表をつけて65万円の控除をとるため、といっても過言ではないのです。
- 会計ソフト………65万円の控除
- 手書きの帳簿……10万円の控除(だったとして)
所得税の最低税率は5%。住民税の税率は固定で10%
2つあわせて15%です。
65万円控除と10万円控除の差は「55万円」なので……
55万円×15%=82,500円
会計ソフトか手書きかで、税金に82,500円の差がでるといえます。
数万円位を会計ソフトにつかってもお釣りがくる、と考えることもできるのです。
簿記の知識が必要か
青色申告特別控除が10万円なら、簿記の知識がなくても、こづかい帳の感覚でいけると思います。
最低限、売上や経費をいつ利益の計算に組み込むのかは知っておかなければなりませんが。
いっぽう55万円または65万円の青色申告特別控除をとるのなら、簿記の知識は必要です。
貸借対照表を違和感なくつくるために。
といっても、知識の量としては日商簿記3級のテキストの3分の1くらいでしょうか。
1日1~2時間の勉強を1か月もやれば、十分にまかなえる量だと思っています。
会計ソフトをつかうからといって簿記の知識がいらないわけではない、と思ってくださいね。
経営の役に立つか
経営のことを考えるとき、売上や仕入などを月や週単位で集計したものをみながらおこなうことが一般的です。
手書きでネックになるのは「集計すること」です。
この点は、Excelをつかうことでグンと楽になります。
なので、「手書き or 会計ソフト」ではなく、「Excel or 会計ソフト」に置き換えて考えてもよいでしょう。
いずれ税務署は収受日付印を押さなくなる
令和7年(2025年)からは、税務署は申告書の控えなどに印鑑を押さなくなる予定です。
なので「いつ申告書を提出したか」の裏付けについては、e-Taxの受信通知が一般的になるだろうと個人的に考えています。
正式な書類というとやっぱり紙のイメージですが、それが一変すると思うのです。
(参考記事)税務署は申告書などの控えに印鑑を押さなくなる予定です
であれば、申告書も紙ではなくデータでつくることになります。
だったら、申告もe-Taxで……
せっかく電子申告するなら、青色申告特別控除を65万円とるようにしてみるか……
いやいや、10万円の控除でよいから、そのぶん手間をへらすか……
まとめ
個人事業主が帳簿をつくるとき、手書きと会計ソフトのどちらがよいかの判断材料になることを解説しました。
カギになるのは貸借対照表をつくるかどうか、です。
せっかく会計ソフトを導入したのに、青色申告特別控除が10万円ではもったいないですから。
※ 記事作成時点の情報・法令等に基づいています。
当事務所のサービス