個人事業主が減価償却を忘れたらどうなるか
減価償却は、法人は任意・個人は強制とされています。
そのため、個人事業主が減価償却を忘れたら、減価償却費にできるトータルの金額がへってしまいます。
複数年でみたときに、トータルの経費がすくなくなってしまうのです。
これを回避するには、申告書を再提出するか更正の請求をしましょう。
減価償却 法人は任意・個人は強制
備品や車・機械など単価10万円以上のものは、減価償却により経費にしていきます。
購入したときにその代金が一括で経費になるのではなく、購入代金をつかう期間で分割して経費にしていくのです。
この減価償却ですが、個人と法人で大きくちがう点があります。
- 法人の減価償却は任意
- 個人の減価償却は強制
法人の減価償却は任意
法人の減価償却は、法律上、やってもいいしやらなくてもよいとなっています。
その根拠は次のとおりです。
内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として損金の額に算入する金額は、償却費として損金経理をした金額のうち、償却限度額に達するまでの金額とする。
(法人税法31条を意訳)
ポイントは「償却限度額に達するまでの金額とする」という文言です。
- 定額法や定率法などの計算方法
- それぞれの固定資産について決められた法律上の耐用年数
これらに基づいて計算されるのが償却限度額です。
損金(税務上の経費)になるのは償却限度額までの金額なので、ゼロでもよい。
つまり、減価償却をやってもいいしやらなくてもよい、ということになるのです。
これを「任意」と表現しています。
もちろん「達するまでの金額」なので、ルール通りの金額よりもすくない減価償却費にすることもできます。
利益調整の方法としてつかうこともできるわけですが、単に利益を多く見せかけたいだけなら、やらない方がよいでしょう。
個人の減価償却は強制
強制というのは「しなければならない」という意味ではありません。
経費にできる「減価償却費の金額がきまっている」という意味です。
法人では任意とされているので、対比のために強制という言葉をつかっています。
その根拠は次のとおりです。
居住者のその年12月31日において有する減価償却資産につきその償却費として必要経費に算入する金額は、その者がその資産について選定した償却の方法により計算した金額とする。
(所得税法49条を意訳)
ポイントとなるのは「~とする」という文言です。
申告書での減価償却費がどんな金額になってもいいけれど、経費として認めるのは「その者がその資産について選定した償却の方法により計算した金額」なのです。
もしルール通りの金額よりも多ければ「申告をやり直してね」と言われるでしょう。
反対に、ルール通りの金額よりも少なかったり、そもそも忘れてしまったらどうなるか……?
個人事業主が減価償却を忘れたらどうなるか
もし減価償却を忘れてしまっても、法律上は未償却残高がへっていきます。
※ 減価償却は購入代金を分割して経費にしていく仕組みですが、購入代金のうちまだ経費になっていない部分を未償却残高といいます。
「減価償却費の金額がきまっている」ので、する・しないにかかわらず、ルール通りに減価償却したものとして未償却残高がへっていくのです。
これが「強制」の意味することの中でもっとも大事な点です。
うっかり忘れたから続きからリスタートということは、できないのです。
ある年は減価償却をし、また別の年はやらない。
こういうことによる利益調整を防止するための仕組みだと考えましょう。
なので、忘れたままだとトータルの減価償却費はすくなくなってしまいます。
もし過去の申告で減価償却を忘れてしまったら、その申告を手直しする手続きをしましょう。
申告の期限内に間に合うなら、訂正した申告書を出しておきましょう。
おなじ年に2回申告書を出すことになりますが、有効とされるのは2回目にだした申告書です。
申告の期限を過ぎてしまったら、更正の請求という手続きをしましょう。
この更正の請求ができるのは、申告の期限から5年以内です。
「請求」なので手続きをしてから中身の確認をされ、それから税金が還付されるという流れになります。
なお、申告書の再提出も更正の請求もできないときは、次の仕訳により未償却残高をあわせておきましょう。
(事業主貸)××× (固定資産)×××
まとめ
個人事業主が減価償却を忘れてしまっても、未償却残高は毎年へっていきます。
忘れたままだとトータルの減価償却費(経費)がへってしまうので、時期におうじて、訂正した申告書をだすか更生の請求をしましょう。
余計な税金を払うのはもったいないですから。
※ 記事作成時点の情報・法令等に基づいています。
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