経験と歴史。どっちから学ぶか

簿記は、いまから500年ほど前、15世紀頃から商売でつかわれてきました。

役に立つことは、歴史が証明しているのです。

いっぽうで経験も大事ですが、どっちから学ぶか以前に敵になるのは自分自身だったりします。

 

簿記の歴史

簿記(複式簿記)の歴史はふるく、15世紀後半に、おもにイタリアから広がっていったと言われています。

 

きっかけの一つに、ルカ・パチョーリが1494年に出版した「算術、幾何、比及び比例全書(スンマ)」があります。

数学の基本書としての位置づけのようでしたが、このなかで「簿記」について触れられています。

ヨーロッパでは、本はそれまで手書きで作られていたため、非常に高価でした。

ですが、この頃にグーテンベルグが活版印刷を発明し、本が普及するようになりました。

 

また、この頃には「アラビア数字」も普及し始めています。

  • アラビア数字……1234567890

それまでつかわれていた「ローマ数字」は「ゼロ」の概念がない…など、普段の計算においては使いにくい面もありました。

  • ローマ数字……ⅠⅡⅢⅣⅤⅥⅦⅧⅨⅩ…(Ⅹは10)

 

たとえば「1494」は、ローマ数字では「MCDXCIV」となります。

もし、今でもモノの値段や為替などがローマ数字で表記されていたら……と想像したら、やっぱりアラビア数字はすごい発明ですよね。

 

本と数字。

この2つの要素により、簿記がひろがっていったのです。

 

簿記が活用されたのは……

簿記が活用されたのは、やっぱり「商売」です。

 

たとえば、北イタリアのヴェネチアでおこなわれていた東方貿易。

ヴェネチアから地中海東部まで船や陸路でいき、香辛料やお茶・織物などを購入して帰ってくる。

こうしたものがヴェネチアからほかのヨーロッパの国々へ売られていく。

とても儲かったようです。

 

でも、とても一人の財布で出来るものではありません。

何人かで元手を出資し、船も借り、無事に帰ってきたら儲けを分配する。

 

このときに、ちゃんとした帳簿がなければ揉めるのは当然です。

「自分が出資したのは○○だから、儲けの○○を欲しい」

「儲けはホントに○○なのか」

「○○があったはずだ!」

「○○なんか受けとっていない!」 

 

簿記は、こうしたお金のトラブルを避けるために必要でしたし、自分の身を守るためにも必要でした。

ちゃんとした帳簿があれば「証拠」にもなるので。

いつの時代も、お金のトラブルはあったでしょうし…

また、儲けの分配までがキッチリしていなければ、商売をつづけることもできません。

 

この東方貿易で大儲けしたヴェネチア商人たちには、身の危険もありました。

貿易の道中での山賊・海賊といった類や、自宅への強盗など。

でも、いつも大金をもって歩くわけにもいかない。

 

そこで登場するのが「銀行」です。

たんにお金を預けるだけではなく、「為替取引」や貿易のための「お金を貸す」ために。

ヨーロッパにおける最初の銀行は、この時代につくられています。

 

銀行といえば「1円たりとも間違わないもの」です。

とうぜん簿記は必須の道具です。

 

このように、商売においては「ちゃんとした帳簿をつくること」は、必須の条件です。

  • そもそも商売をつづけるため。
  • 信用を得て商売をするため。
  • 取引の証拠にするため。
  • お金のトラブルをふせぐため。

 

つまり「お金を稼ぐため」に簿記は必要なのです。

もし、すべての人が「お金なんかどうだっていい」と考えていたら、簿記は普及しなかったでしょうから。

 

経験と歴史。どっちから学ぶか

ふだんから簿記をつかって経理するのは、「歴史に学ぶ」といえます。

いっぽう、決算書などをあてにせず、口座の履歴やてもとのお金を頼りに、自分の頭でかんがえながら経営していくのは「経験に学ぶ」といえるでしょう。

 

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」なんて有名なフレーズがありますが、歴史に学ばないのが「愚者」だとは思いません。

「ふだんから簿記で経理しない=愚者」とも言いません。

 

たとえば、事業の規模がちいさくて、暗算や簡単なメモでも利益がわかる場合。

事業が安定していて、「いつもの感じ」でトラブルなどおきない場合。

こうした場合に、わざわざ手間やお金をかけて経理をしない……という選択はアリだと思うのです。

代わりに時間が浮く、ということもありますし。

もちろん、おおきなトラブルがおきない、という前提はありますが。

 

いっぽうで、経営が上手くいっていなかったり、お金に問題がありながら、自分の勘をたよりに経理をおろそかにするのは……どうでしょうか。

ただ、なかには必死で経営したのに上手くいかなかったかたもいるかもしれません。

「もし知っていたら…」で差がつくこともあると思うのです。

 

となると大事なのは、自分にとって役に立ちそうなことを知るための行動です。

つまり、いろんな経験。

本を読んだり、セミナーを受けたり。

 

もちろん、事業に関係することだけに限りません。

たとえば、痛い目にあわないと分からないことってあります。

自分が痛い目にあったから、ほかの人のことがわかる……

 

こうしたことが、どこでどうつながるかなんて分かりません。

結果、事業によい影響があることだってあり得ますし。

 

でも、いろんな経験をするのに邪魔になるのが、「面倒くさい」とか「失敗するかも」という気持ちだったりします。

経験と歴史。どちらも大事ですが、むしろ敵になるのはこうした気持ちです。

怠け心とか怖い気持ちに負けないように向き合っていきましょう。

起業って、将来の保証がないチャレンジですから。

 

まとめ

簿記は、15世紀からお金を稼ぐ目的のために活用されてきました。

うまくお金を稼ぐには、簿記が必要だということを歴史が証明しているのです。

もしチラッとでも「簿記は役に立つかも」と感じるなら、その気持ちを見逃さないようにしましょう。

 

※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。