飲食店が免税事業者のときの交際費1万円の判定

税制改正により、令和6年4月から取引先との飲食で1人あたり「10,000円以下」のものは、交際費から除外することができるようになりました。

その10,000円以下かどうかの判定は、税込み経理・税抜き経理によって変わり、さらにインボイスの有り無しによっても変わります。

この記事では消費税の計算は原則的な方法によるものとして、その仕組みを解説します。

 

令和6年(2024年)4月からの税制改正

これまで、取引先との飲食代で1人あたり5,000円以下のものは、交際費から除外することができました。

「いつ・誰と」などを記録しておくことを条件に、「会議費」として経理しておけばよかったのです。

 

税制改正により、この「5,000円」という基準が、令和6年4月からは「10,000円」に変わりました

 

そもそも交際費は、年間800万円までが経費としてみとめられます。

800万円をこえる部分は、税務上は経費とはあつかわずに法人税を計算するのです。

(資本金が1億円をこえる法人やその法人の子会社等はのぞきます)

 

少しややこしい仕組みなので、サンプルの数字をつかってみてみましょう。

たとえば、決算書で次のようになっていたとします。

  • 売上……1,000万円
  • 経費(すべて交際費)……1,000万円
  • 利益……0円

 

このようなとき、「利益が0円だから法人税もかからない」とはなりません。

交際費が1,000万円ありますが、年間800万円までしか経費としてみとめられないからです。

 

そこで、法人税は次の数字をつかって計算することになります。

  • 売上……1,000万円
  • 経費(すべて交際費)……800万円(200万円は経費としない)
  • 利益……200万円

 

決算書には、違法・合法を問わずにすべての経費をのせます。

ですが法人税では、その決算書の数字のうち合法ものだけをつかって税金を計算します。

そのため、上記のようなズレがでてくるのです。

 

ここまでを踏まえると、税金面では交際費が800万円をこえないほうがよいわけです。

税制改正により、取引先との飲食代で1人あたり10,000円以下のものは、実態が交際費であっても、交際費から除外することができるようになりました。

5,000円以下だったものが10,000円以下になったため、交際費から除外することができるものが増えたのです。

取引先との飲食がおおいかたにとっては朗報ですね。

 

さて、その飲食代が1人あたり11,000円(税込み)だったらどうなるか……?

 

税込み経理をつかっているなら、税込みである「11,000円」で判定します。

なので交際費から除外することはできません。

 

いっぽう税抜き経理をつかっているなら、税抜きである「10,000円」で判定します。

なので交際費から除外できるのです。

ですが、この判定のしかたは、飲食店からインボイスをもらっている場合にかぎります。

 

インボイスがないときはどうなるかをみていきましょう。

※ 以降すべて税抜き経理をつかっている前提です。

  また、簡易課税・2割特例をつかっているときはのぞきます

 

飲食店が免税事業者のときの交際費1万円の判定

インボイスがないとき、11,000円(税込み)の飲食代は、税抜きでは「10,200円」となります。

というのも、消費税の納税額の計算には、11,000円のうち「800円」しか組みこめないからです。

消費税の計算に組みこめなかった部分が、経費となるのです。

 

この仕組みは、インボイス制度の導入にともなう経過措置によるものです。

 

消費税の納税は、原則として次のように計算します。

  • 売上などで受けとった消費税ー経費などで支払った消費税=納税額

 

この算式は、経費などでインボイスをうけとっていないときは次のように変わります。

  • 売上などで受けとった消費税ー経費などで支払った消費税×80%=納税額

(この「×80%」が経過措置です)

 

消費税の計算には組みこめないものがでてきてしまうのです。

それは、経費として経理することになります。

 

そのため、11,000円の内訳は次のようになるのです。

  • 10,200円……経費
  • 800円……消費税の計算に組みこむ

 

では、いくらだったら「10,000円以下」になるのか……?

 

それには、数字を「%」におきかえるとわかりやすいです。

税抜き本体を「100%」として、上記の数字を「%」でみてみましょう。

  • 11,000円……110%
  • 10,200円……102%
  • 800円……8%

 

このような関係のもとで、「102%」が10,000円になればよい。

これを計算すると、次のとおりです。

  • 10,784円……110%
  • 10,000円……102%
  • 784円……8%

 

つまり、10,784円(税込み)なら、税抜きが10,000円となるのです。

なお、この数字のもととなる経過措置の「×80%」は、令和8年(2026年)9月までです。

 

それ以降は、次のように変わっていきます。

  • 令和8年(2026年)10月~令和11年(2029年)9月……「×50%」
  • 令和11年(2029年)10月~  ……「×0%」

この変化におうじて、上記の「10,784円」という数字も変わっていくことになります。

 

最終的には、インボイスがない11,000円(税込み)は、そのままの金額である11,000円で交際費の判定をすることになります。

たぶん、取引先と飲食をしているときに、こういう小さなことを考えることはほとんどないでしょう。

ちいさな豆知識として聞いておいてくださいね。

 

まとめ

令和6年4月からは、取引先との飲食で1人あたり「10,000円以下」のものは、交際費から除外することができるようになりました。

それまでは「5,000円以下」だったものが税制改正されたのです。

 

その飲食代について、インボイスをめぐってこまかい数字がでてくることもあります。

でも、このようなときはドンブリ勘定でもよいのかもしれませんね。

 

※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。