なぜ法人税の申告は所得税よりもむずかしいのか

法人税の申告をするためには、複式簿記が必須です。

くわえて、所得税ほど多くの情報がでまわっていない…

こんなところに、法人税のむずかしさがあります。

 

所得税よりもハードルがあがるわけ

個人の税金である所得税は、おおくのかたが、ご自身で作成・申告されています。

その際には、身近なところでも、参考にできるものがたくさんあります。

  • ネット情報
  • 税務署におかれている申告の手引きなど
  • 税務署での相談
  • 各地域の無料相談会

 

数字になれているかたであれば、おそらく、申告の手引きだけで出来てしまうんじゃないか…

そんな風にもおもいます。

 

いっぽう、法人税は、所得税のようにおおくの情報が出回っているわけではありません。

また、その情報をみたとしても、専門用語だらけ…だったりします。

 

ただ、専門用語なんかは、いちど確認すれば問題ないでしょう。

法人税の申告には、もうすこしむずかしいところがある…

それを、みていきましょう。

 

なぜ法人税の申告は所得税よりもむずかしいのか

法人税の申告が、所得税よりもむずかしいのは、つぎのことにあります。

  • 複式簿記が必須
  • 利益と所得は別物
  • 数字が合っていないことがバレやすい

 

複式簿記が必須

法人税の申告には、貸借対照表を添付しなければなりません。

この貸借対照表をつくるには、複式簿記が必須です。

くわえて、「その貸借対照表が合っているのか」がわかる目も必要です。

 

会計ソフトをつかえば、貸借対照表は、クリックひとつでできます。

でも、それが合っていなければ、意味はない…

  • 貸借対照表が合っていないということは、利益も税金もちがっているかもしれない
  • あきらかなミスがあれば、かえって税務署のツッコミをよぶかもしれない

 

所得税では、貸借対照表を添付しない…という選択肢もあります。

青色申告特別控除にこだわらなければ。

そんなときは、損益計算書だけでよいので、手書きやExcelでもじゅうぶんです。

でも、法人税には、損益計算書だけ…という選択肢はないのです。

 

貸借対照表が合っている…というのは、科目それぞれの残高が合っていることを意味します。

たとえば売掛金なら、つぎのことが不明なものが含まれていてはいけません。

  • 相手先
  • 金額
  • 売上の内容
  • (だいたいの)入金の時期

 

もし間違いがあれば、直すことになります。

ここでややこしいのが、「1つの数字がうごくと、かならず他で1つ以上の数字がうごく」という複式簿記のしくみです。

 

たとえば、売掛金がかわるなら…

  • 売上がかわるかもしれない
  • 入金額をまちがって入力したかもしれない
  • 売上から天引きされているものがあるかもしれない
  • 消費税率がちがったかもしれない
  • 過去の決済がちがったかもしれない

こんな可能性があるわけです。

 

数字を1つだけ変えるということができないのが、複式簿記のむずかしさです。

いいかえると、すべてが合っていなければならない…と。

 

でも、これは勉強すればいいだけ…ともいえます。

数字は、税金のためでもありますが、ほんらいは経営のためのもの。

勉強して、損はないですから。

 

利益と所得は別物

利益と所得は、べつのものです。

利益というのは、収入から経費をひいたもの。

いっぽう所得は、利益に税務上のルールをくわえたもの。

これは、所得税も法人税もおなじです。

 

ただ、利益と所得のちがいは、法人税のほうがおおきいです。

たとえば、つぎのものは、法人税の所得を計算するときには、経費とはあつかいません。

  • 法人税、住民税
  • 役員報酬のルールからはずれているもの
  • 罰金
  • 法人税のルールよりもおおい減価償却費
  • 交際費のうち、年800万円をこえる部分
  • 一定額以上の寄付

このほか、収入とはあつかわないものもあります。

 

この利益と所得のちがいを、法人税の計算におりこむために必要なのが「別表4」です。

別表とは、「申告書のページ」とおもってください。

 

この別表は、あまり使わないものをふくめれば、数十種類あります。

そのなかから、自分がつかうものだけを選ぶのです。

ただ、つぎのものは、ほとんどの場合で必須だとおもいましょう。

  • 別表1……名称や住所、税額などの全体像
  • 別表2……同族会社かどうかの判定
  • 別表4……利益と所得のちがいを計算
  • 別表5(1)……税務上の純資産を計算
  • 別表5(2)……税金の納付状況
  • 別表6(1)……利息や配当をうけとったときのもの
  • 別表7(1)……赤字があるときのもの
  • 別表15……交際費があるときのもの
  • 別表16……減価償却にかんするもの

 

別表の書き方などは、わりと簡単な本などもでています。

また、ひかくてき廉価なソフトもあります。

こうしたものを利用すれば、できないこともない…

(実際に、ゼロからやるかた・あるいは初心者とよべるようなかたがご自身で申告するお手伝いをしたことがないので、断言はできないのですが…)

 

ただ、そのときには気を付けたいことがあります。

 

数字が合っていないことがバレやすい

法人税の申告書では、ある1つの数字が、複数の別表にのることがあります。

そのときには、その数字はおなじでなければならない。

 

たとえば、損益計算書の利益は、別表4のいちばん上にも記載されます。

もし、その数字がおなじでなければ、これは明らかなミスです。

ソフトをつかえば、このあたりは「連動」で解決できます。

もしソフトを購入するなら、このこともチェックしておきましょう。

 

また、申告書には、「勘定科目内訳書」も添付します。

これは、売掛金や買掛金・家賃など、貸借対照表や損益計算書にあるいくつかの科目の内訳を記載するものです。

もし、その金額が、貸借対照表などとちがえば…

やっぱり明らかなミスです。

となると、税金もちがっているんじゃないか…という疑念をよんでしまいます。

 

法人税は、申告書と添付書類をあわせると、20ページくらいになることもザラです。

そのすべてについて、つじつまがあってなければならない。

法人税には、量と正確さの問題がある…と思っておきましょう。

 

まとめ

法人税の申告が、なぜむずかしいのか…についてみてきました。

税理士のわたしからみても、法人税はむずかしいです。

でも、その前段にある利益の計算は、人任せにはしないほうがよい…とおもっています。

もし出来るなら、お金や数字の知識が手にはいります。

それが、判断や行動を変えてくれるかもしれないので。

 

※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。