会社が赤字のとき減価償却はするべきか・しないべきか

会社にとって、減価償却はしてもよいし、しなくてもよいのが法人税のルールです。

原則としては、するべきもの。

ただし、欠損金の繰越控除には気をつけましょう。

 

減価償却は任意

会社、つまり法人にとって、減価償却は任意です。

してもよいし、しなくてもよい。

そのため、もし既に赤字なら、減価償却をしないことも選べるのです。

そうすれば、赤字をさらに大きくしないことができますから。

 

減価償却をするまえの状態で赤字なら、法人税などの税金も、すでに最低限。

それ以上に赤字をふやしても、さらに税金が少なくなることもないですしね。

(個人の場合は任意ではなく、減価償却は必ずおこないます)

 

では、なぜ法人にとっては減価償却が任意なのか…?

それは、法人税が、会計ソフト入力後にできる決算書をベースに計算されることによります。

 

なぜ決算書をベースにするのか

法人税の計算は、できあがった決算書の数字に、税務上の特例や縛りなどを加味するかたちでおこなわれます。

その決算書というのは、合法・非合法とわず、すべての数字が盛り込まれるもの。

たとえば、駐車違反なんかも。

 

いっぽう法人税の計算において、駐車違反のような罰金は、経費として認められません。

駐車違反をすれば、経費がふえて、法人税がすくなくなる…

というのも、良くないことですからね。

 

決算書をベースにする…というのは、ちょっと複雑に思えるかもしれませんね。

でも、もし決算書をベースにせず、法人税のルールにそった収入や経費だけを集計することを考えれば、それはそれで大変です。

会計ソフトの入力が、2倍になるようなことですから。

なので、決算書をベースにするという仕組みになっているのです。

 

法人税における減価償却費

ここで、減価償却のことをもう一度かんがえてみましょう。

減価償却というのは、単価10万円以上のモノを、つかう期間で分割して経費にしていく仕組みです。

たとえば、10万円のモノを5年間つかうなら、毎年の減価償却費は2万円…という風に。

 

でも、つかう期間は、法人それぞれ異なるはず…という問題があります。

そのモノがつかわれる環境や使い方、社内ルールなんかもそれぞれですから。

ただ、法人税の計算にあたり、そこまで考慮することはできません。

 

「つかう期間はそれでよいのか」を調べるのにも、膨大な資料や手間・時間がかかるでしょう。

それに、うまくやれば利益調整にもつかわれそうですしね。

といったチェックをするのも大変。

なので、モノにおうじて、法律によりつかう期間がきめられています。

それを、法定耐用年数といいます。

 

でも、たとえば法定耐用年数が「5年」のものを、「うちは10年で買いかえる予定だよ」というとき。

このときは、「10年」で減価償却をおこなうべきです。

そのほうが、実態がよりただしく決算書にあらわれますから。

 

こういう背景があるので、法人税における減価償却費は、次のようにあつかわれます。

  • 決算書にのっている減価償却費のうち、法定耐用年数により計算した金額までを、法人税における減価償却費とする

 

たとえば、次のようなことに。

  • 決算書での減価償却費……10万円
  • 法定耐用年数で計算すると……8万円
  • 法人税における減価償却費……10万円ではなく、8万円

 

これを逆手にとるような発想で、「減価償却はゼロでもかまわない」という考えに行きつきます。

決算書における減価償却費は、つまりいくらでもよいわけです。

法定耐用年数により計算「しなければならない」わけではないので。

これが、法人にとって減価償却は任意となっている理由です。

 

ちなみに、法人税法では次のとおり。

内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につき、その償却費として当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度において、その償却費として損金経理をした金額のうち、償却限度額に達するまでの金額とする。

※ 損金経理をした金額……決算書にのっている減価償却費

※ 償却限度額……法定耐用年数により計算した減価償却費

(法人税法31条より抜粋・意訳)

 

 

このように、法人にとって、減価償却はしてもよいし、しなくてもよいもの。

ただ、減価償却が任意というのは、法人税法だけのこと。

そのほかの面のことも、確認してからするべきか、しないべきかを考えましょう。

 

赤字のとき減価償却をするべきか・しないべきか

確認が必要なのは、次のことです。

  • 融資
  • 決算書のあるべき姿
  • 欠損金の繰越控除

 

融資

できる減価償却をしない。

これは、融資を申しこむにあたって大きなデメリットです。

というのも、利益調整を疑われたり、「いい加減なのね」と捉えられてしまうからです。

 

たとえば、減価償却をすると赤字になるけど、しなければ黒字になる。

こんなケースで、減価償却をせずに黒字にしてしまう。

黒字のほうが、融資は受けやすいですからね。

 

でも、これはいわゆる粉飾です。

ということを金融機関のかたはよく知っているので、おおきなマイナス要素になってしまいます。

 

また、「うっかり忘れた」と言い方もあるかもしれませんね。

これも、「自分の財産の管理ができていない」という、おなじくマイナス要素です。

財産の管理もいきつけば、お金の管理ですからね。

そのお金の管理ができていないひとに、お金を貸すでしょうか…?

 

できる減価償却をしないというのは、融資にとってはおおきなデメリットをもたらすのです。

 

決算書のあるべき姿

法人税のルールではなく、会計そもそもを考えたとき。

減価償却というのは、そのモノをつかっているなら「しなければならないもの」です。

 

とくに、減価償却費がのる損益計算書。

これは、事業の活動をあらわすものです。

活動とは、経費のこと。

その結果は、売上などの収入です。

 

そこに「あるモノをつかっている」ことが反映されないなら、それは正しい利益とはいえません。

もし、決算書をだれかに見せる必要があるなら、このことに留意しておきましょう。

 

欠損金の繰越控除

欠損金の繰越控除とは、その年度の赤字を、将来の黒字からマイナスし、将来の法人税を計算する方法のことです。

 

たとえば、利益が次のようなとき、来年度の法人税がどうなるか。

  • 今年度……△100 (赤字)
  • 来年度……+150 (黒字)

 

今年度のことがなければ、来年度の法人税は、次のとおりです。

  • 来年度…… 150 × ○○% = 法人税

 

でも、欠損金の繰越控除ができるなら、次のようになります。

  • 来年度……(150ー100)× ○○% = 法人税

 

将来の法人税がすくなくなることの恩恵。

赤字の金額によっては、かなり変わることもあります。

でも赤字は、将来10年以内の黒字としか、相殺できません。

10年たってしまうと、そこから先へ赤字を繰り越すことはできず、切り捨てられてしまうのです。

(会社をたたむときに、つかえる余地はあります)

 

すると、欠損金の繰越控除ができていたなら、払わなくてよかった税金。

これを、払うはめになってしまいます。

 

通常は、ここまで赤字を消化できない…といえばいいでしょうか。

将来の黒字からマイナスできない…ということは起こりません。

その前に、会社のお金が足りなくなり、事業が続けられなくなるからです。

 

でも、自分でつくった会社など同族会社の場合は、事情がことなります。

社長などの役員が、お金を立て替えられることもおおいので。

つまり、赤字の原因は、役員報酬だったりもするのです。

その役員報酬からのお金で、足りない会社のお金をカバーするわけです。

 

「赤字は、10年以内に消化したほうが良い」

こう考えたとき、減価償却をしないことに、ひとつ大きな理由がでてきます。

ここまでのことを踏まえると、とても悩ましい事でもあるんですけれどね。

 

そして、もし赤字の原因が役員報酬なら、その金額設定がよくなかった可能性も大きいです。

同族会社の場合は、社長など役員個人の税金と、会社の税金。

この2つがトータルで少なくなるように…という視点もありますから。

 

本来であれば、減価償却は赤字であってもするべきものです。

ただ1点、欠損金の繰越控除のことを考えたとき、しない理由が存在します。

そのほかの事情を踏まえたうえでのことですけれどね。

 

そもそも、赤字は喜ぶべきことではないことも知っておきましょう。

事業の目的は、お金を稼ぐことですから。

 

まとめ

法人にとって、減価償却は任意です。

でも、これは法人税だけのこと。

基本的には、赤字であっても減価償却はすべきもの。

ただし、欠損金の繰越控除だけは、気をつけておきましょう。

 

※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。