取引先の支払能力を調べる方法

お金の実情は、見た目からは分かりません。

もし取引先の決算書が手に入るなら、とりあえずの支払能力を調べるために見るべきところを確認しておきましょう。

 

見た目ではわからない

「取引先は、自分への代金を払えるのか…」と気になることはないでしょうか。

せっかく仕事をしても、入金がなければ、大変ですからね。

 

そんなとき頼りになるのは、まず見た目。

  • 大きな金額が、会話にでてくる
  • 過去の実績がスゴイ
  • 忙しそう
  • 高いものを身につけている
  • 知り合いに社会的地位の高そうな人がいる

こんな風であれば、お金を持っていそうに思えますよね。

 

でも、じっさいの懐具合は、案外わからないものです。

見栄えがよくても借金まみれということは、なくはないですからね。

そうした実情を明らかにしてくれるのが、その取引先の決算書です。

 

ただ、その決算書は、入手するのが難しいもの。

上場企業なら、公表しなければならないので、いろんな方法で見ることができます。

いっぽう非上場企業の場合。

株式会社なら、決算を公告しなければならないというルールになっています。

でも現実では、公告はすべての会社でされているわけではありません。

それに、公告されている内容はざっくり過ぎるので、決算書ほどは頼りにならないものです。

 

もしかしたら、その取引先のホームページで公開されているかもしれません。

そうでないなら、帝国データバンクなどの信用調査会社に依頼するのが現実的でしょうか。

直接たのんでみるのもアリなのかもしれませんが、元請け・下請けのような関係でないかぎり、あまり普通のことではないように見聞きしますので。

 

なので、もし手に入るなら…

下記に説明していくことをもとに、取引先の支払能力を調べてみましょう。

 

取引先の財務状況の見方

以下にある貸借対照表と損益計算書の項目を、考えてみましょう。

 

現金および預金(貸借対照表)

まず見るべきは、「現金および預金」です。

 

取引先は、この現金および預金で、毎月の経費を払っていきます。

その経費は、どれくらいなのか。

それは、損益計算書に、仕入れや販売費及び一般管理費としてのっています。

 

ただし、これらは1年度分の金額です。

それを1か月分に変換する…となると、計算するのは大変かもしれませんね。

 

なので、だいたい月商で1か月分の経費をまかなえる…という前提にしてみましょう。

現金および預金が、その月商の何か月分くらいあるか…と。

 

もし、2~3か月分くらいあるなら、臨時の出費までは推測できないものの、まず問題なさそう…とみることができます。

いっぽう、1か月分もないようなら、支払いは滞る可能性がでてきます。

 

ですが、これは取引先が黒字の場合のこと。

もし赤字なら、損益計算書にある経費を集計したほうが安全です。

また、細かいことを言えば、減価償却費はないものとして経費を集計する、借入金の返済や未払い法人税などを考慮する…ということもしておいたほうがよいです。

ただ、突き詰めていくとキリがないので、とりあえずはざっくりとしたところを把握しておきましょう。

 

なお、取引先が黒字であっても、次のことは気をつけておく必要があります。

 

売掛金(貸借対照表)と売上(損益計算書)の比較

売掛金は、売上になっているもののうち、まだ入金されていないものです。

もし、売上が1年をつうじて平均的にあるなら、売掛金は次のようになると推測できます。

  • 請求から入金までが1か月……売上の 1/12
  •     〃    2カ月……売上の 2/12

 

もちろん、年度末に平均よりもおおきな売上があったときは、うえの比率は崩れます。

繁忙期がある業種なのか…と気にしておくことも必要なわけです。

ただ、粉飾をしているときは、売掛金がみょうに大きな金額になっていることがあります。

 

となると、黒字であっても信用はできません。

うえで計算した月商も、あてにならないわけです。

そんなときは、経費のほうを軸にかんがえる…と用心が必要なのです。

 

お金の増減(貸借対照表)と利益(損益計算書)の比較

これを調べるには、貸借対照表は2期分が必要です。

そこから、現金および預金の「増減」をわりだしましょう。

それと、「利益(当期純利益)」を比べてみましょう。

 

両者がだいたい同じ金額になっているなら、問題はありません。

もしそうでないなら、難易度は高めですが、次のことを調べる必要があります。

  • 売上などの収入になっているのに、お金は入ってきていないもの
  • お金が出ていったのに、経費になっていないもの

これらの原因が、お金が足りなくなることにつながるので。

 

たとえば、入金されていない売上である売掛金が、上にあたるもの。

これが入金されなければ、支払いが滞る可能性はゼロではありません。

 

いっぽう、下にあたるものには借入金の返済も含まれますが、特に気をつけたいのが次のことです。

 

棚卸資産と買掛金(貸借対照表)の比較

棚卸資産とは、商品や、まだ終わっていない仕事にかかる原価が主なものです。

これらと、買掛金をくらべてみましょう。

 

もし、棚卸資産のほうが、買掛金よりもあまりに多いなら…

それは、お金を払ったのにまだ売れていないものがあることを意味します。

つまり、買ってから売れるまでに時間がかかっていることを。

 

その時間は、業種により異なります。

そして、その内情を調べるのは、難しいかもしれません。

 

とはいえ、棚卸資産を抱えすぎるのは、それがお金に変わらないリスクを抱えているということ。

もしかしたら、売れ残りですからね。

それがあまりに多いのは、いずれお金が足りなくなることを招きます。

そうした用心すべきことだと知っておきましょう。

 

利益(損益計算書)と繰越利益剰余金(貸借対照表)の比較

利益は、1年度のものです。

いっぽう繰越利益剰余金は、会社を設立してから、その時点までの累積利益です。

(配当金を出していたなら、累積利益からマイナスされています)

 

まずは、繰越利益剰余金をみてみましょう。

どれだけの黒字を積み重ねてきたのか…という視点で。

 

もし、過去にくらべて今期の利益がとつぜん大きいようなときは、それとなく事情を聞きたいところです。

盛っている可能性も、なくはないですから。

すると、支払いが滞る可能性につながりますし。

 

また、繰越利益剰余金は、マイナスの値になることもあります。

ただし、その原因は役員報酬が高いこと…だったりもします。

家族経営のような同族会社では、役員報酬を高めにすることもあるので。

 

そんなときは、会社にお金がなくても、社長など役員からお金がでてくることもあります。

その証が、役員借入金などとして、貸借対照表にあらわれます。

これについては、損益計算書の役員報酬も確認してみましょう。

あくまで、今期だけですけれどね。

ひょっとしたら、会社にはお金がなくても、社長などがもっているかもしれません。

であれば、いっけんお金はなくても、支払いは問題ないこともあるので。

あまり望ましいことではないですが…

 

なお、会社は売り買いをすることもできます。

それにより、ある種、過去の偽装にちかいこともできる…と知っておきましょう。

(参考記事)誰でもできる怪しい会社の調べ方

 

売上高(損益計算書)と資本金(貸借対照表)

売上高も資本金も、おおければスゴイ…と感じるかもしれません。

でも、売上高よりも利益が大事。

おなじく、資本金よりも繰越利益剰余金。

 

売上高がどんなにおおくても、赤字ならお金は減ります。

その累積が、繰越利益剰余金にあらわれています。

売上高にも資本金にも、惑わされないように気をつけましょう。

 

まとめ

取引先は、自分への代金が払えるのか。

そう気になったときに、取引先の支払能力を調べる方法についてみてきました。

 

なお、ここまで書いてきたことは、自分自身にとっても同じことがいえます。

お金が足りなくなる予兆は、ここまで書いてきたところにあらわれるのです。

ということを踏まえて、自分の数字もみておきましょう。

 

 

※ 記事作成時点の情報・法令に基づいています。